2024年11月23日(土)

Wedge REPORT

2009年6月30日

 オバマ大統領が4月に「核兵器のない世界」を目指す考えを正式表明した際、日本の麻生首相は「極めていい傾向だ」と即座に支持を表明した。だが、実際の日本の立場はそう簡単ではない。日本は、究極の目標として核廃絶を掲げる一方、米国の「核の傘」を国防の基盤に据えるというジレンマを抱えている。

 核軍縮や不拡散問題と異なり、核兵器を活用する「核の傘」は、核に対する日本国内の世論の反応を考えると、公の場で議論しにくい、というのが現在の日本政府内の空気だ。外務省幹部は「一歩間違えば、核武装論と誤解される恐れがあり、政府レベルの公式な議論は今もタブーに近い」と語る。

 このため、日本政府は、“ブッシュ後”の政権に照準を合わせ、昨夏ごろから主に次の2点を中心に、米側関係者に非公式な協議の場で訴えてきた。

 (1)次期NPR策定にあたっては、事前に日本と協議してほしい(2)東アジアには、核兵器の近代化を進める中国や、核開発をやめない北朝鮮が存在し、今、米国の核抑止能力が急激に低下すると不安定さが増す。核戦力の削減には慎重な検討が求められる―。

 NPRは、クリントン政権下の1994年と、ブッシュ前政権下の02年の過去2回策定された。いわば、冷戦後のアメリカ核戦力体制の枠組みを示す重要文書だが、全容は部外者には非公開だ。

 過去2回の内容について、日本は米側から「概要説明はあったが、策定前はもとより、策定後も詳細な説明はなかった」(元防衛省幹部)という。日本側からも特に正式に説明を求めてこなかったという。「核の傘」が日本防衛の基盤であることを考えると、何とも心もとない状態だ。

 元防衛省幹部は、今から約2年前の筆者の取材に対し、こう語ったことがある。

 「日本の防衛は、米国の核抑止力に依存しているのに、日本はまだ知らないことが多くある。有事の際に日米共同で対処する作戦計画をまとめるうえでも、米国の核戦力の体制や、核兵器が具体的にどう運用されるのかなどについて、日本は米国から聞き出さなければいけない。それが確かめられた時、米国の核抑止力に対する真の信頼も生まれる」

 日本政府は今回、その米国の核戦力体制について、ようやく内容の説明を求め、日本としての見解を反映させるべく動き始めたわけだ。

 5月6日、そうした日本の姿勢を反映した報告書が発表された。米国の今後の核戦略について、米連邦議会の超党派の諮問委員会がまとめた「アメリカの戦略体制(America's Strategic Posture)」という最終報告書だ。委員長をウィリアム・ペリー元国防長官、副委員長をジェームズ・シュレジンジャー元国防長官という安全保障分野での左右両翼の重鎮が務めたこともあり、報告書は、オバマ政権のNPR策定作業に、議会サイドからの影響を与えると受け止められている。


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