学びなおしのリスク論

2014年11月27日

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漆原次郎 (うるしはら・じろう)

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、科学技術関連の記事を寄稿。早稲田大学大学院科学技術ジャーナリスト養成プログラム修了。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。著書に『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』『日産驚異の会議』『宇宙飛行士になるには』など。

車を運転する人は、していない人より
車は安全だと思っている

 人は、事故・災害などに対して、個別に実際のリスクとは異なるリスクのイメージを形成しているわけだ。そのイメージはどう形成されるのか。

 「ポール・スロヴィックという著名な研究者が、人びとに様々な質問をして因子分析をしました。結果、『恐ろしさ因子』と『未知性因子』、それに第三の因子として『災害規模因子』がリスクのイメージの形成に関わっているとされています」

 まず、「恐ろしさ因子」を構成する尺度には、「制御不可能か可能か」「恐ろしいか恐ろしくないか」「カタストロフィックかカタストロフィックでないか」といったものがあるという。それぞれ前者を強く感じる事故・災害に対しては、認知のリスクが高くなりやすい。

 「未知性因子」も同様のことがいえる。「観察可能か不可能か」「接触している人が知っているか知らないか」「影響が遅延的か速効的か」といった尺度に対して、前者を強く感じるほど、認知のリスクは高くなりやすい。

 さらに「災害規模因子」が加わる。大規模になりうる災害に対しては、認知のリスクが高くなりやすいというわけだ。一度に多数の犠牲者が出る地震のほうが、交通事故よりも規模の大きさを感じるため、この因子は強くなる。

 「光の三原色で様々な色の光がつくられるのと同じように、これらの因子が組み合わさって、その人のリスクのイメージがつくられるのだと、スロヴィックは言っています」

 谷口氏は、現在京都大学大学院教授の藤井聡氏が2002年に、神奈川県の江ノ島海岸に来ていた行楽客を対象に行った調査結果を紹介する。調査は、どの交通手段で来たかと、交通事故でなくなってしまうドライバーは何人に1人ぐらいだと思うかを60人に聞いたものだ。すると、自動車以外で来た人の答えは平均「4509人に1人」だったのに対し、自動車で来た人の答えは平均「9721人に1人」だった。

 「車を運転している人は運転していない人よりおよそ2倍、車は安全だと思っているわけです。でも本当は、車を運転していない人の答えのほうが、真実に近いのです」

 車を運転していれば、「車を制御可能」と思うようになるし、「車を知っている」ことにもなる。スロヴィックの「恐ろしさ因子」や「未知性因子」は小さくなるので、運転をしない人よりもリスクを感じなくなるという話に当てはまりそうだ。

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