従来、一般的に台湾の政治地図では、中部の川、濁水渓を挟んで、北は国民党、南は民進党という図式でとらえられることが多かったのですが、今回の選挙は、このような通念を覆す画期的なものとなりました。
この選挙の結果、馬英九政権の政治的基盤がさらに弱体化することは避けがたいでしょう。
国民党が6直轄市のうち、唯一そのポストを維持した新北市長の朱立倫は次期総統選の有力候補とみなされてきたが、今回の選挙では僅差でかろうじてそのポストを維持したに過ぎなかったため、そのイメージに傷がついたと見られています。
直轄市選挙の最大の関心は首都台北市でしたが、無所属の柯文哲が大差で勝利しました。同氏は、民進党の推薦を受けつつも、具体的な選挙活動においては、民進党の応援を受けることなく、既成政党と一定の距離を置いた姿勢を貫きました。台湾大学教授(外科医)として、その政治・行政手腕は未知数ですが、多くの無党派・中間層の票を得て、勝利しました。
無党派層の支持を得た柯文哲の当選は、今年3月、議会占拠の挙に出た学生たちの「ひまわり運動」が、既成の政党と一定の距離を置いたことと軌を一にしています。「ひまわり運動」は、馬英九政権下での対中国宥和策が続いてゆけば、やがて台湾は中国に呑み込まれてしまうのではないか、との危機意識から出たものでした。
今後、台湾の政治は2016年はじめの総統選挙に向かって動き出すことになります。民進党(蔡英文主席)が、今のモメンタムをこのまま保持することが出来るのか、そして、特に民進党の対中国政策が如何なるものになるか、が最大の焦点となります。
国民党は、今回の結果を受け、おそらく次期総統候補として中国に距離を置く人物を選ぶでしょう。台湾の世論調査では、現在約8割が「現状維持」を支持しており、民進党が党綱領に拘って独立色を強く出せば、敗北する可能性はあります。ただ、いずれの党が勝つにせよ、両岸の経済関係は今より控え目となり、主権については、馬英九ですら話題にしないと言っていますが、その傾向はさらに強まることになるのは確実です。中国は、今回の台湾の地方選挙の結果に対し、表立った反応を控えているようですが、硬軟織り交ぜた対応により、台湾の民心を試し、あるいは脅そうとすることも考えられます。12月7日には、人民解放軍の劉精松大将が、台湾を武力により併合する必要性を示唆したと受け取れる発言をしています。
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