2024年11月22日(金)

患者もつくる 医療の未来

2015年1月7日

モラルハザードの心配も

(原因2)制度破綻のリスクを減少させるために対象条件を厳しくした。

 一般に、対象件数の想定が困難な中で制度を始めざるを得ない際には、少なめの想定で始めて、もし、結果が「想定よりも多かった」となれば、補償ができなくなってしまうわけですから、どうしても制度破綻のリスクを減少させるために、想定を多めに見積もりがちになるでしょう。「想定よりも少なかった」という結果になれば、「それでは、もう少し対象範囲を広げよう」ということにすればよいわけで、今年からの対象範囲の拡大も、その流れで実現したわけです。

 それでも、私は、もっと対象範囲を広げるべきだと考えています。

 生後6カ月未満に死亡した子、妊娠28週未満の未熟児、障害者等級3級以下などは対象外とされていますが、それらの数字で区切らなければいけない必然性は乏しいはずで、今後さらに、より柔軟な対応を検討していくべきだと思っています。

 また、同じようにこの制度に加入し、同じように脳性まひの子どもを育てていても、先天性の脳性まひや新生児期の要因による脳性まひも基本的に除外されています。2009年の一年間でも、脳性まひとなって申請をしているのに、対象外と判断されて補償されなかったケースが23%もありました。ゆくゆくは、原因分析と再発防止のサイクルによって、防げる脳性まひを減らすことで、これらの現在対象外となっている子どもたちにも何らかの対応をしていく検討も必要だと思います。

(原因3)原因分析が始まったことによる緊張感で医療の質が向上した。

 この制度は、対象となった事例をすべて、産科医会や学会の代表者らが複数で原因分析をし、その報告書が分娩機関と家族の双方に送られることになっています。そして、それらの原因分析結果を縦覧して、再発防止策も講じられていくシステムです。

 そのことは、制度が始まる前に、全国の産科医に対して再三告知されました。原因分析をするために必要なカルテ等の記録のあり方についても、改めて注意喚起がなされました。

 このような「他の医師らによって原因分析がなされる制度」が始まるというだけで、産科医の中には、良い意味の緊張感が生まれる可能性があります。補償対象者数の推計は、この制度が始まる前のデータを元にしたわけですから、推計値よりも実際の対象者数が少なくなったのは、このような影響による可能性もあります。

 しかし一方で、原因分析がなされることよりも、「公的な保険で補償がなされる制度」が始まることによって、「脳性まひになる事故を起こしても、自らが訴えられたり賠償請求されたりするリスクが減る」と考えて、医師の緊張感がより減少する、というモラルハザードの心配もあります。


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