2024年6月25日(火)

科学で斬るスポーツ

2015年2月9日

野球学会で吉井氏が発表した研究成果。捕手のジェスチャーに着目したバッテリー間のコミュニケーションについて、発表したポスター
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 そういうやり方の下地ができたのは、今から思えば高校時代にあったのかも知れない。和歌山県立箕島高校で、尾藤公監督の指導を受けたが、正直言って何も教えられなかった。その分、自分で考え、投球の感覚、こつ、チェックポイントをノートに記していた。もちろん結果がでなかった時には、怒られた。その時得た感覚で、プロに入ってもずっと心掛けていたこともある。その一つがフォームのリズム感だ。「ターンタタン」という表現で投げるとよい結果がでるとノートに記していた。

 プロに入ってからもチェックポイントを言語化した。例えば、足を上げて体重を移動する時の軸足の感覚は「(斜め後ろ方向に)地面の奥にめり込むようなイメージ」というふうに。これによって体の動かし方がスムーズに行った。

 こうした感覚を持つことが実は正しいことを、大学院に入って学んだ。体を動かす時などは、足、膝の角度などに意識を置くのではなく、体からはずれたところに意識する方が、体の流れがスムーズに動く。スポーツ科学で言う「自動化」(意識せずに行う動作)※2なのだという。自分がやっていたことは足の裏に矢印(ベクトル)を意識していたことなので、結果的に良かったんだと安心した。自分で考え、その時の感覚を大切にすること、解説書に頼っていたらダメだったと思った。

※2「自動化」
スポーツ科学が専門の関西大学の小田伸午教授によると、スポーツの動きを修正する際、修正したい部位を意識するのではなく、違う部位に意識した方がスムーズにいくという。「意識をはずす」と言う。小田教授によれば、大リーグ3年目のときイチローは上半身に力みが残りスランプになった。その際、「膝の下の力を緩めことで、上半身の力みがなくなった」と答えている。

客観的に言語化することの重要性

 大リーグでプレーした時、日記をつけていたが、試合の後に、どこが良かったのか、悪かったのか、後で人が読んでもわかるようにしていた。筑波大の中込四郎教授(スポーツ心理学)に聞くと、「自分を反省し、プレーに生かすには最高のことをやっていた」と言われた。中込先生によると、自分のプレーを客観的に説明できない、言語能力がないと反省できない、気づかない。感覚を表現する能力。こうした言語能力がないと、相手の言っていることはわからない。結局、気づきがなく進歩しない。やはり言語化※3させることは大事だということを改めて痛感した。

 2軍のコーチ時代にも、試合後のミーティングで、試合にでていない選手を新聞記者役にして、ポイントをまとめさせ、レギュラー選手に質問し、答えさせることをやった。こうすることで、試合に出なかった選手に試合をよく見てもらうことになり、試合にでた選手には、自分のプレーを冷静に振り返られる。そして、1軍に上がった時のインタビューの訓練になると思った。このミーティングは1年しか続けられなかったので、成果を見ることがなかったが、悪いことではないと思っている。

 コーチ時代に選手にはよくこう言った。「自分の中にコーチがいると思って、そのコーチと吉井コーチと話をさせてくれ」と。客観的に自分をとらえる訓練で、言語化する能力を高めるものでもある。

※3「言語化」
アスリートは自分の感覚を客観視するために独特の表現をする。言語能力の重要性を説くのが、世界陸上400mハードルで2度の銅メダルに輝いた為末大氏。より早く走るために「空き缶を踏みつぶすような感覚」などと表現。「指導者は言語能力が、その正否を左右する。年取ってから動きを見せられなくなった時に、相手にイメージを伝えられるから」と語っている。コーチングに相通じる。日本サッカー協会の英才教育であるJFAアカデミーでもプレーを言語化する「言語技術」と「論理的思考」を重視している。


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