電力価格倍増というのは強烈な印象を与えるが、実は、このことは民主党政権が開催したエネルギー環境会議の時にもすでに指摘されていた。具体的には、エネルギー・環境に関する選択肢 経済影響分析結果一覧において、例えば「ゼロシナリオ(原子力がゼロのシナリオ)」を、「自然体シナリオ」と比較すると、野村准教授の分析では、2030年断面において、電力価格が117%の増加となっているのに対して、電力需要の減少は8.6%となっていた。これはRITEの分析でも同様で、電力価格が130%の増加となっているのに対して、電力需要の減少は11.2%となっていた。
このように、電力価格が100%以上増加しても、すなわち電力価格倍増でも、約10%の省エネしか起きない、というのが試算結果であった。だから、今回の小委試算で示唆された18%の省エネとなると、電力価格倍増でもまだ足りない、ということになるだろう。
GDPの下落について、野村准教授は経済教室記事で2030年断面において2.2%と言及している。これについても更に、前述のエネルギー環境会議の資料を見ると、電力価格が倍増する「ゼロシナリオ(原子力がゼロのシナリオ)」においては、「自然体シナリオ」と比較すると、2.6%のGDPの下落になる、としている。但しこのGDPの下落には、エネルギー供給側のコスト増による影響も含まれているので、全てが省エネのコストではない。
これを大きいと見るか、小さいと見るかは様々であろう。だが、これらのモデルによるGDP下落の試算は、一般的に言って、現実と比べるならば、かなり過小評価になることに注意がいる。なぜならば、試算では、省エネ政策は“理想的”に、つまり「経済合理的に」、全部門で一律の炭素税によって実施されると前提しているからだ。現実には、例えば税金で電力価格を上げるとなると、全部門で一律というわけにはならず、国際競争に配慮して産業部門では税率を低く、家庭部門では税率を高くせざるを得ないだろう。さらに、高額の税金を課するというのは政治的にあまりに不人気なので、政府は直接規制や補助金を多用することになる。これはどんなに上手くいっても経済合理的というものには程遠くならざるを得ない。更には、不適切な規制や補助金などの「政府の失敗」もつきものである。これらの理由で、国民経済全体としての負担は大きくなる。筆者がとりまとめに当たったIPCC報告書でも、税率は部門ごとに差異化され、規制や補助金が多用される結果、国民負担は理想的な政策を前提としたモデル計算よりも大きくなる、とまとめている。経済合理的な政策の実施といった理想的な前提が崩れると、典型的には、国民負担は数倍になることが指摘されている(更に詳しくは『地球温暖化とのつきあいかた』参照)。