日本のエネルギーミックスを検討する長期エネルギー需給見通し小委員会では大幅な省エネを見込んでいる。これを仮に税金によって実現するならば、既存のモデル試算によると、電力価格倍増とそれに伴う国民負担が生じる。だが税金ではなく規制や補助金を多用して実現するならば、国民負担は更に増える。何れも現実的ではなく、この省エネ見通しは抜本的に修正しなければならない。
長期エネルギー需給見通し小委員会(以下、小委)は、2月27日の第3回会合において、エネルギー需要の見通しを暫定値として示した(資源エネルギー庁HP参照)。すなわち、2012年から2030年にかけての経済成長率を1.7%と想定した上で、電力需要の伸び率は「省エネ対策前」の「技術固定ケース」で0.9%、「省エネ対策後」には△0.2%になるとしている。これが18年間積算された結果として、2030年断面の電力需要は「省エネ対策前」の1兆1440億KWhに比べて「省エネ対策後」の18%減の9360億KWhとなっており、大幅な省エネを見込んでいる。
この「省エネ対策前の技術固定ケース」はその定義の割には電力需要が低すぎるため、実際にはかなりの省エネが織り込まれていると解釈せざるを得ない。更にそれが「省エネ対策後」ではダブルカウントされている、といった問題点がある。
これについては既に詳しく書いたので*、本稿では取り上げない。
*参考:
http://ieei.or.jp/2015/03/sugiyama150305/
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4817
以下では、仮にこの小委の数字を出発点として受け入れたとしても、それが大きな国民負担に帰結することを示していく。ただし0.9%という電力需要の伸び率については、「省エネ対策前」の「技術固定」という前提で算出されるのではなく、過去と同様の徹底した経済的合理化としての省エネ対策を実施した結果である、と解釈する。そして、これ以上の省エネの深掘りは、コストを伴うものであると考える。
さて慶応大学の野村浩二准教授は、3月19日付の日本経済新聞「経済教室」において、小委の示す省エネを価格効果(炭素税等のこと)によって引き起こすためには「電力価格倍増」が必要であり、これは2030年断面ではGDPの2.2%程度の下落になり、それまでに失う所得の総額は100兆円近くなる、と警鐘を鳴らしている。この試算は、実際に電力価格が高騰して経済への悪影響が観察された、イタリアの事例の計量分析に基づいている。