さて現実には、2030年を待たずして、過大な省エネ見通しと現実との乖離が明らかになって、長期エネルギー需給見通しが改定されるだろう。だが、その過程におけるエネルギー政策の歪みと、国民経済への負担が危惧される。
苦い教訓を忘れてはならない。かつて日本では過大な再エネ導入目標が設定され、やがてそれを達成するためとしてFIT制度が導入されて、今日の混乱を招いた。いま過大な省エネ見通しを看過すると、同じ轍を踏むことになりかねない。
特に今回のCO2目標は、単に国内的な位置づけではなく、2020年以降の国際枠組みを決めるパリでのCOP21に提出されるので、国際的な重みが加わる。一度言った数字は取り下げにくくなるので、増々要注意である。数字は慎重に決めねばならない。鳩山政権の△25%削減目標と同様に軽々に世界へ提出して、後でそれを撤回すれば、国際的な信頼を失うことになる。
いま日本政府は、安定した経済成長を目指している。そうであれば、為すべきことの1つは、低廉で安定した電力需給を確立することである。
報道によれば、自民党は、電力価格を震災前の水準に抑制すること、そのために、ベースロード電源比率を60%以上にするという骨子で提言案をまとめた(電気新聞記事参照)とのことである。
だが過大な省エネ見通しによって、電力価格倍増や、あるいはそれを上回る国民負担が生じるならば、ベースロード電源を増やして電力供給コストを下げるとしても、その意義は大いに減じられてしまう。
いま世間の耳目は、電力供給に集まっている。だが電力需要においても、過大な省エネの見通しは、国民経済への負担をもたらす。このことを今、重要な問題として関係者に提起したい。
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