2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月14日

 マグラスは、今後あり得べき中国の反応につき四点を指摘していますが、その中で最も目を引くのは、中国が今後南米やカリブ海地域で基地などのネットワークを構築してくるのではないかとの指摘です。これは、冷戦時代のソ連の動きを想起させます。中国は、2014年7月の習近平主席の中南米訪問や今年1月の中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体フォーラム(CELAC)の北京開催など中南米との関係強化を図っているほか、中南米諸国との軍事交流も活発に進めています。

 マグラスが言うように米中海軍競争の公然化により、中国は海軍力増強の一層の口実を得ることになるかもしれません。しかし、A2AD戦略の強化や沖縄の海峡を通じる太平洋進出の常態化等に見られるように、中国は既に海軍力強化に乗り出しており、今回報告が中国の政策に特段の影響を与えるというより、むしろ、中国は米国の決意を再認識したのではないでしょうか。その意味で、今回報告は、明示的な戦略宣言の効果により、米の対中抑止力と信頼性の向上に貢献したとみるべきしょう。その点、今回報告は前向きに評価すべきと思われます。

 今回報告では、「インド・アジア・太平洋地域Indo-Asia-Pacific」という新しい地域概念を打ち出し、この地域での中国の海軍力拡大に言及、これは「機会」でもある(ソマリア沖の海賊作戦参加など)が、「挑戦」でもある(中国の威嚇的行動、透明性の欠如、A2AD推進など)としています。中国を念頭に置けば、インド・アジア・太平洋という概念は合理的でしょう。

 また、報告は、A2AD対抗能力について、抑止力、海域支配、投射能力、海洋安全保障に加え、今回、新たに「全域アクセスAll Domain Access」という考え方を提示し、これは陸海空軍、宇宙、サイバー空間等を含め米軍の自由な行動を確保するためのものと説明しています。宇宙、サイバーについては、今般合意された日米新ガイドラインでも強調されています。こうした面での日米の協力の進展が加速することが期待されます。

  
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