2009年当時輪番制の欧州理事会議長(EU大統領)を務めていたトポラーネク元チェコ首相は、ガス供給停止の事態になって以降、ブルガリアの首相から30分おきに電話が掛かってきたと述べている。ロシアの天然ガスに今も当時も100%依存しているブルガリアはそれほど追い込まれてしまった。ブルガリアは2012年に早々とシェールガス採掘を禁止したが、そこにもロシアの影がある。
しかし、エネルギー問題は一筋縄ではいかない。ブルガリアは最近になり、既存原子力発電所向けの核燃料供給と新規原子力発電所の建設・資金提供を東芝の子会社である米ウエスティングハウスに打診した。ブルガリアは既存の2基の原発の燃料供給をロシアに依存している。また、この発電所の近代化工事もロシアが行う予定だ。ブルガリアの首相は、もしロシアが意図して工事を遅らすことがあれば、ブルガリアの電力供給は大惨事に見舞われるとして、ウエスティングハウスに接近を図ったのだ。
欧州のシェールガス採掘の妨害をするロシア
欧州からウクライナ、ロシアにかけてはシェールガスが埋蔵されている。表の通り、米国の埋蔵量16兆立法メートルには及ばないが、ポーランド、フランスは欧州のなかでは、大きな埋蔵量を持っている。フランスの埋蔵量は日本の使用量の30年分を超えていると言えば、欧州各国が持つシェールガスの埋蔵量の価値が分かる。
ロシアは、欧州のシェールガス開発には当然反対の立場だ。欧州内で新たに天然ガスが生産されれば、ロシアからの輸入量が減少する。また、ロシアの天然ガス供給を利用した影響力行使の効果も弱まる。ブルガリアに加え、フランスも環境問題からシェールガスの開発を認めていないが、英国、ポーランド、ルーマニアは開発を認めている。ラスムセン元デンマーク首相は、NATO(北太平洋条約機構)事務総長を務めている時に個人的見解としながら「ロシアは、欧州でシェールガス開発に反対する環境関連の非政府組織の活動に係わっている」と述べ、ロシアがシェールガス開発を妨害していると示唆している。
ルーマニアで2013年から探査活動を行っていた米国シェブロンは、シェールガス開発に反対する環境団体の抗議に悩まされていたが、環境団体の人間の鎖による探査現場の閉鎖を受け、探査活動を中止しルーマニアから引き揚げてしまった。地元の自治体幹部は、状況証拠しかないが、ロシアが裏で糸を引いていると述べている。今年になり、シェブロンはルーマニアでの探査の結果、開発は行わないと発表した。