2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2009年8月25日

 フランス産、米国産、中国産などのリンゴがキロ175~200円であるのに対して、日本産はなんと4000円。いかに高級品だとはいえ法外だ。地元客は「中に金でも入っているのか?」と笑っていた。農水省は舐められたというより、高い税金を使って日本産農産物のマーケティングに水をさすようなことをしているわけだ。

世界5位の農業国が
輸出しない理由

 近年、農水省や政治家たちが声高に叫ぶ輸出促進は、戦略的なマーケティングとは程遠い。それは日本農業の海外進出のためというより、彼らが輸出促進に取り組んでいることを示す、あくまで日本国内向けの宣伝に過ぎない取り組みに思えてしまう。

 我が国の農政は、国内農業保護を優先するあまり、世界の趨勢からは完全に立ち遅れている。しかも、海外での日本食ブームという日本農業にとってのビジネスチャンスにもかかわらず、その農業政策で自ら海外展開への障壁を作っている。

 農水省の発表によれば、2009年に日本から輸出された農産物(林産・水産物を除く)は2883億円。04年の2038億円からすれば確かに伸びている。しかし、FAOの統計で世界と比較すると、05年の日本の輸出額は19億㌦に過ぎない。それに対して、英国216億ドル、ドイツ425億ドル、米国653億ドルなどと桁違いの金額である。1965年には、日本、英国、ドイツの輸出額には大きな差は無かった。しかし70年代から各国は輸出比率を高め、05年までに英国は約20倍(200億ドル増)、ドイツは実に約70倍(420億ドル増)も輸出額を増やしている。それに対して我が国は、40年間ほとんど横ばいといってもよい状況にある。

 現在、農水省は農林水産物輸出を「平成25年までに1兆円規模を目指す」というものの、その半分は水産物が占める数字だ。水産物を含めても100億ドル。ドイツ、英国のレベルにははるかに及ばない。

 我が国の農業生産額が小さいわけではない。05年で885億ドル。我が国の農業生産額は先進国中第2位(世界第5位)であり、ドイツ、英国の4倍以上もある。にもかかわらずこの輸出額なのである。その理由は、経済成長の下にあった恵まれた国内マーケットと778%という高関税によって守られた高米価によって支えられてきたことにある。今後、欧米諸国以上の勢いで進行している日本の高齢化は、急激に国内農産物マーケットを縮小させていくことになる。

 しかし、敗北主義を捨てて、輸出や海外生産に取り組めば、世界のマーケットで必要とされる存在になることが可能なのだ

海外生産に乗り出す農家が現れた

 『農業経営者』では、10年近く前から、コメをはじめとする和食向け日本食材や独自の技術を持つ果樹やイチゴなどの海外での生産と海外のマーケットの開拓を呼びかけてきた。“Made in JapanからMade by Japaneseへ”である。読者とともにオーストラリア、ウルグアイ、中国、ドバイ、ロシア沿海州などの„適地„の調査をおこない、既に一部の読者農家は海外に農場を持ち生産を始めている。カリフォルニア在住で「田牧米」のブランドを立ち上げた福島の稲作農家田牧一郎氏は、ウルグアイで現地の農家に指導を行いながら日本米の生産に取り組み始めており、今年から販売を始める計画だ。ウクライナで大豆作りを始めた青森県の木村慎一氏は、将来的に日本に輸出することを想定し、今や同国農業関係者の注目の的である。また、千葉県の木内博一氏が率いる和郷園という農事組合法人ではタイに農場を取得し、同氏の農場で生産されるバナナやマンゴーがドールのバナナや現地の他のマンゴーよりはるかに高い価格で取引されるようになっている。まさにジャパン・プレミアムである。


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