2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2009年8月25日

 それだけではない。すでに農業にビジネスチャンスを見出せる経営力のある農業経営者は育っており、さらに農家数は減っても経営者として農業に取り組む才覚を持つ若者が増えている。経営者自らの努力と彼らに呼応する企業の取り組みにより、国内農業も輸出も海外農業生産も、やがて大きく成長するだろう。

 海外マーケットに関しては、日本のフードビジネスが海外進出に意欲的になっていることが追い風になる。食材は食文化とともにあるものだからだ。やがて、海外で日本人が作った日本品種がカリフォルニア米を凌駕する時代が来る。そして、世界的なコメ市場の中では極めて小さな存在でしかない日本米は、海外でMade by Japaneseに取り組めばこそ世界の人々に認識されるようになり、高価な国内産もマーケットを広げるだろう。

過保護政策が導く
国家と農業の衰退

 こうした我々の活動に対して農業関係者の多くは、つい最近まで冷ややかであり、「お前たちは海外産地で低コストに作って日本農業を危うくさせる気か?」と凄む人もいた。

 そんな、日本の農業関係者の精神の鎖国状態は我が国の農政そのものに原因している。筆者はかねて「農業問題とは農業関係者問題」あるいは「農業関係者の居場所作りのために創作される農業問題」であると言ってきた。そして、彼らの主張は、貧しい農民や農家の存在を前提とした、国家が農業を管理する計画経済型あるいは途上国型の農業政策を続けることである。

 EUあるいは英国で80年代にそれまでの過度な農業保護政策を止めたのも、供給過剰が常態化する先進国においては、過剰な農業保護政策が国家経済の負担になるばかりでなく、農業そのものの衰退に繋がることを理解したからである。しかし、日本は米価を高値に維持させる手段としてコメに対する高い関税の維持や生産調整を続けている。そんな政策が続くのはまさに「農業問題とは農業関係者問題」であるからなのだ。

 生産調整で米価を維持するといったところで、米価は大多数の農家の家計にとってはほとんど意味を持たない。稲作農家の大多数を占める高齢稲作農家の生産規模は50~70アール程度である。当然、収支は大赤字。でも、それらの人は稲作の収入で生計を立てているわけではない。普通のサラリーマンである息子や孫の収入に依存し、収穫したコメの少なからざる部分を親戚縁者におすそ分けすることを楽しみにしている。

 同時に、現在、農協の組合員は約920万戸。そのなかの半分は実際には耕作は行わず農協に出資するだけの准組合員である。一方、農業生産者の中で、販売金額が1000万円を超す者は約14万戸、農協組合員数の実に1.5%に過ぎない。農林族の政治家を操る農協組織にすれば、98.5%の組合員の利害を優先させるのは当然だ。事業的農家が農業生産額の過半を供給するにもかかわらず、彼らの利害や将来の日本農業など関心外だ。農業団体や農家自身が農業の産業化を阻んでいるのである。

自給率向上より
輸出促進に取り組め

 「農家の高齢化」あるいは「担い手不足」などといわれるが、欧米と比べて我が国の農家数はまだまだ多すぎる。政策転換にはこれまでの無策のために過渡的には混乱も生じ、事業的農家にとっても困難が伴う。対象を限定したセーフティーネットで切り抜けるしかない。


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