米国の価値は称賛に値し、広く望まれる。時としてそれを実現する最善の方法は棚上げすることである、と論じています。
出典:Edward Luce,‘Barack Obama’s welcome Kissinger realism’(Financial Times, April 19, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/3e8ab152-e521-11e4-bb4b-00144feab7de.html#axzz3Xqf86Aqc
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米国は自由と民主主義を旗印に掲げる理念の国ですが、時としてその旗印を外交に持ち込み、失敗することがあります。イラクでサダム・フセインを排除し、民主主義国家を樹立しようとしたのはその典型例です。ただ、キッシンジャーを持ち出すまでもなく、米国が理念でなく国益を優先した例はあります。国内を厳しく弾圧したシャーのイランを中東の枢軸国としたことや、女性に車の運転すら認めないサウジアラビアを戦略的パートナーとした例などです。
オバマの中東政策は当初から勢力均衡を目指したわけではありません。オバマのそもそもの中東政策の主眼は、イラク、アフガニスタンからの撤兵であり、米国が再び中東の戦乱に巻き込まれないことでした。つまり、中東への軍事的関与の軽減でした。しかし、それは政治、外交的関与の軽減を意味するわけではありません。イランとの核交渉がそのいい例です。オバマの中東での勢力均衡策は、最初から意図したものであるというよりは、結果としてそうなっているというべきでしょう。
ISISとの戦いについては、イラクでイランの支援するシーア派民兵に頼らざるを得ないのは、論説の指摘する通りでしょう。しかし、アサド政権との協力は問題です。いくらISISとの戦いが重要であるとはいえ、国際的にこれほど批判され、サウジなどが打倒を呼びかけているアサドと組むのは、賢明とは思われません。
中東での勢力均衡で重要なのは、サウジとイランとの関係です。両国は宗派対立も絡む覇権争いをしていますが、今のところイランが押し気味です。米国が両国間の勢力均衡を図ろうとするならば、一方が圧倒的に強くなることのないようにするのが勢力均衡の要諦ですから、イランとの核交渉の最終合意に向け全力を挙げる一方で、サウジへのコミットメントを再確認し、サウジの不安感、対米不信の払拭に努める必要があります。
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