中島厚志が読み解く「激動の経済」

2015年7月17日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 ギリシャのプライマリーバランスは2014年プラス0.4%(欧州委員会発表)となり、ギリシャ政府は今年プラス1.5%を実現するとしているが、EUはプラス3%を求めている。日本が2020年のプライマリーバランス黒字化目標に四苦八苦していることに鑑みれば、ギリシャはもう十分な黒字化を達成している。しかし、それでも全然足りないとすれば、それはギリシャの努力不足よりは、債務の要返済額とEUの要求の方が過大に見える。

余儀なくされる欧州統合への道のり修正

 ギリシャの苦境を見るにつけ、今回の合意でギリシャ問題が円満に終息することにはなるまい。今後ともギリシャの財政健全化への道のりは著しく厳しく、このままではギリシャ国民が耐え切れなくなる可能性が強い。

 一方、EU側にとっても、ギリシャ問題はEUとユーロ圏の大きな欠陥を露呈させてしまった。それは、消費者物価、長期金利などを、最も経済状態が良好な域内国の水準と一定の範囲以内に収めることが前提とされているEUとユーロ圏の枠組み(経済収斂基準)についてである。

 この枠組みが維持されるかぎり、EU加盟国なかんずくユーロ圏参加国には域内で最も堅実な経済財政運営をしているドイツと同等ないしは近似する経済パフォーマンスが求められることとなり、とりわけ経済競争力が乏しいギリシャにとってそれは至難としか言いようがない。

 結局、EUあるいはユーロ圏各国にとっての誤算は、経済パフォーマンスが到底ドイツに及ばないギリシャをEUとユーロ圏に参加させたことにある。同時に、これほどドイツの財政健全化や経済運営が堅実で、参加各国がその水準を追いかけるのに四苦八苦する現状も、ユーロ圏発足当時には想定外だったのかもしれない。

 当然、ギリシャ問題は今後も再燃する可能性が強い。そして、最終的には、ギリシャがユーロ圏から離脱するか、何らかの方法で二重通貨制を採用するしか根本的な解決策が見いだせないように見える。

 しかも、これらの方策が採られてギリシャ問題が最終決着しても、ユーロ圏にとってはなお弥縫策に過ぎないように見える。現在の経済収斂基準があってドイツ経済が世界最強とも言えるパフォーマンスを維持するかぎり、域内から第二、第三のギリシャが登場する可能性が否定できないからである。

 このことは、現在の欧州統合の理念と現実の隔たりが大きく、政治の一体性を強めることはともかくとして、通貨統合にまで単線的につながる経済統合は無理筋だったことを示している。

 欧州統合は欧州各国にとって共有できる大きな理念であり、今後とも欧州の統合に向けた動きが止まることはないだろう。しかし、マーストリヒト条約から25年を経て、ギリシャ問題を契機に、加盟国の通貨統合を強く求め、「政治と通貨までできるだけ早く統合」する厳格かつ性急な欧州一体化は見直しを迫られている。そして、今後の欧州統合は、「欧州は一つながらも多様性を認める」柔軟な一体化へと大きく変化していくように見える。

 現在のギリシャ問題はコップの中の嵐を遥かに超えてしまった。それは、ギリシャの帰趨に止まらず、欧州統合について今後数十年の大きな方針転換を促すものとなった可能性を見ておく必要がある。

  
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