2024年4月19日(金)

小川さやかのマチンガ紀行

2015年7月31日

 他方、ギャラクシーS5の偽物は30万シリング(約1万8000円)前後で市内の小売店で販売されている。偽物のバリエーションは豊富だが、少なくともこの価格帯の偽ギャラクシーS5は、4Gのモバイル・インターネット機能を搭載していなかったり、カメラ等のその他の機能にも問題がある可能性が濃厚である。

 少し前のモデル(たとえば2)ならば、正規品が15万から20万シリングで手に入るが、偽物は人気が出た商品をターゲットに生産されるので、むしろ旧型モデルのほうが偽物を購入してしまう可能性が高いという別の問題に直面することになる。

中国のオリジナルブランドが人気

 このような状況もあり、都市下層の若者たちのあいだでは、中国のオリジナルブランドのケータイが人気を博すようになった。たとえば、タンザニアのビジネス教育カレッジの研究員らが2014年にダルエスサラーム市の路上商人142人を対象におこなった調査によると、路上商人が利用するインターネット機能のないケータイでは、Oking(14.8%)Intel(14.8%)Ideo(13.4%)G-Tide(12%)と中国ブランドが上位を占め、それに続いて安物ノキア、偽物サムスンが続いた。スマートフォンではHuaweiが首位となっていた(Mramba 他 2014: 5)。

筆者の友人が使用する、中国ファーウェイのスマホ

 彼らが中国ケータイを好む理由は、値段の安さに加えて、巨大な懐中電灯をはじめアフリカ市場向けの機能を搭載していることによる。特に重要なのは、SIMカードの挿入口が2つ以上あることである(これは中国の山寨(シャンツァイ=盗作品)ケータイの最大の発明とされる)。最近では、4つの異なるモバイル通信会社のラインをひとつのケータイで利用できるケータイも存在する。このような複数のモバイル通信会社のラインを必要とする理由は、大きく2つある。

 第一に、場所によってつながりやすいモバイル通信会社が違うことである。ケータイはインフラ整備が比較的に容易なので、通信網の整備は急速に進み、現在では電気すら通っていない奥地の農村でもケータイが通じる。だが、たとえば、市場シェア首位を走るヴォダコム社のラインは、首座都市ダルエスサラームなどでは、かえって時間帯によっては混雑してつながりにくいことも多い。

 第二に、通信会社どうしのサービスである。どのモバイル通信会社のSIMカードを購入するかは、頻繁に連絡しあったり、送金しあう友人や家族がどの会社を利用しているのかによる。同じ通信会社どうしでは夜間通信料に割引があるし、異なる通信会社どうしの送金には不便がある。もし友人と家族が異なる通信会社を利用していたら、複数のSIMカードを持つことになる。これまでは送金のたびにケータイの電源を切って、電池カバーを開けて、SIMカードを入れ替えるという面倒な作業をしていたが、複数のSIMカードが使える携帯はこの面倒を解消したのだ。

 友だち関係を維持するためにケータイを手放せない中高生やLINEの既読スルー問題など、日本ではケータイは何かしら社会問題に結びつけられて語られる。だが最近、私はタンザニアの若者のケータイ依存やスマホ中毒は、もしかしたら日本の若者よりも深刻なのではないかと感じる。

インフォーマル・セクターで働く若者は退屈?
お客を待つ時間が長すぎる

 何より、タンザニアの若者たちは退屈なのだ。2006年の労働力調査によると、都市人口の66%が主要な現金稼得源として「インフォーマル・セクター」、すなわち零細自営業や非正規雇用に従事していると回答している。インフォーマル・セクターは参入障壁が低いのが特徴だが、誰でも参入できる仕事はたいてい競争が激しい。

 生活は苦しいので、毎日よりよい仕事を探しているが、せっかく儲かる商売を見つけてもあっという間に後続者が殺到する。主要な都市部では、タクシーの数は乗客の数よりも多く、露店商の数は買い物客の数よりも多い。それゆえ、客にサービスを提供している時間よりも客を待っている時間のほうが圧倒的に長いのだ。

 ケータイが普及する前、タクシースタンドで客待ちする運転手たちは新聞をなめるように時間をかけて読み、何度も同じ記事を読み直し、新聞をかぶって昼寝もし、気に入った記事を切り抜きし、それでも暇なので、運転手仲間どうしで違う新聞を購入して交換しあっていた。市場の露店商たちは客を待っている時間、仲間どうしでゴシップに花を咲かせる。

 しかし、昼過ぎには話題が尽きてしまうので、残りの時間はトランプやボードゲームをしながらつぶしていた。建築現場の労働者たちは日雇いにあぶれても現場付近にたまり、おこぼれの仕事を探す傍ら、お手製のダンベルで筋トレしたり、道行く女性をナンパしたりしながら、退屈を紛らわせていた。


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