2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2015年9月8日

 現在の規制措置の問題点の一つは、成魚については有効な対策が何も取られていない点にある。成魚を保護すれば生まれてくる仔魚の量も当然増えることが予想される。確かに環境が収容可能な魚の量は限られており、資源が一定以上存在する場合は、水温などの環境変化に子供の数は左右されるだろう。しかし、資源量が激減している現在、成魚の保護は資源増加に直結する。元ICCAT事務局次長の三宅眞博士も「最も効果的な対策は、産卵期・場を禁漁にすること」によって親魚を保護することであり、「科学者はこれを最初から唱えてきています」とその意義を力説している(「過剰な漁獲能力の削減急務 水産総合研究センター遠洋水産研究所客員研究員 三宅眞氏に聞く」『OPRTニューズレター』第33号、2009年1月、2頁)。

資源浪費的で経済的観点からも問題が多い

 現在親魚の一部は、産卵行動を行うため日本海沖で夏季に群れをつくって泳いでいる。この親魚を大きな網でぐるりと取り囲んで群れごと一網打尽に漁獲しているのがまき網漁業である。大間や壱岐など一匹一匹を大切に漁獲する一本釣り漁で水揚げされたクロマグロは水揚げ漁港でキロ当たり約5000円の卸値がつくが、まき網の卸値はキロ当たり約1000円(13年)と低い (漁業情報サービスセンター統計より)。資源浪費的で経済的観点からも問題が多い。

 しかしながら、水産庁はこのまき網漁業の利益をどうしても擁護したいようで、まき網による親魚漁獲への規制の必要を決して認めようとしない。「親をいくら捕っても、子どもの数には関係ない」というのがその理由だが、親がなくても子は増えるという自然発生説かと見紛う珍妙な主張は、アリストテレスの頃ならまだしも、現代生物学の基本原理から残念ながらやや外れているように思われてならない。

 現行の規制では有効な成魚削減などが盛り込まれていないため、こうしたもっと踏み込んだ削減措置を行ったらどうなるか、とりあえず科学評価してみよう、というのが米国提案の主旨である。しかし水産庁はこのシナリオ分析提案についても、徹底的に反対した。結局コンセンサスが得られたのは、現行規制に加えて10%削減した場合のシナリオ分析をISCに依頼するということにとどまった。

 もし成魚の半減などの措置が有効とのシナリオ分析結果が出れば、当然米国などはこれを根拠にさらなる管理措置を求めるであろう。そもそもシナリオ分析をさせないでおけば、水産庁は内外に対して「ISCは成魚削減が必要だとのシナリオ分析をしていない。したがって成魚削減が必要との国際的な科学的は存在しないので、現行規制あるいは最大でもシナリオ分析がある現行比10%削減しか受け入れられない」と主張することが容易に想像され得よう。

 WCPFC条約では、「国内的又は国際的な調査計画からの情報を適切な時期に収集し、及び共有すること」(第5条(i))及び「情報が不確実、不正確又は不十分である場合には、一層の注意を払う」(第6条2項)ことを構成国に義務付けている。また、先述の通り、「十分な科学的情報がないことをもって、保存管理措置をとることを延期する理由とし、又はとらないこととする理由としてはならない」。水産庁は意図的に国際的な調査計画からの情報の収集を妨げ、十分な科学的情報がないことを保存管理措置をとることを延期する理由としているとしか判断せざるを得ない。

 今回の会議で唯一合意が得られたのは、今回会議参加国が実質的に合意した点として「加入量が劇的に減少(drops)」した場合どうするかを、来年決定する」という点である。しかし、12年のクロマグロの加入量は04年比で75%減、14年のクロマグロ幼魚(「ヨコワ」と呼ばれる)の漁獲量は2000年比で実に96%減少している(水産総合研究センター「太平洋クロマグロ2014年生まれ加入量モニタリング速報(2015年5月)及び水産庁への情報公開請求に基づくデータより)。資源が劇的に減少していることはもはや明らかである。

 実はWCPFCは13年、今回原則合意されたものと文言がほとんど同一の管理措置をすでに採択している。加入量が1回減的に減少(a drop)した場合の措置を14年に検討しなければならない、という内容だった。ところが翌14年のWCPFC北委員会ではこの問題に対して何の討議も行われず、無視される結果となった。なお北小委員会の議事進行を管理する議長は一貫して日本の水産官僚あるいは元水産官僚(同一人物である)が独占してことを付言しておこう。


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