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2015年9月8日

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真田康弘 (さなだ・やすひろ)

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員/客員准教授

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータを経て、2014年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。
 

 今回原則合意された「緊急措置」提案は、13年に採択されたものと文言がほぼ同一であるが、前回のものでは加入量が1回減少すれば緊急措置を発動することになっていたが、今回のものでは「減少(drops)」が複数形になっており、加入量の減少が最低2年以上継続しなければ、この措置は発動しないことになっている。

まだ炎に包まれているだけだから問題はない

 一般的に太平洋クロマグロの加入量は3年に1度上昇する。したがって緊急措置の発動を加入量の減少が3年継続した場合にすれば、ほとんど発動されることがないことになる。しかも現在のトレンドが続くと16年は加入量があがるため、この提案は結果的にポーズだけの単なる引き伸ばしに過ぎない。

 火事に例えて言うと、周囲の住人たちが「あなたの家が炎に包まれている。直ちに消防車を呼ぶべきだ」と訴えているにもかかわらず、この家の管理人は「まだ炎に包まれているだけだから問題はない。家が数年間燃え続けて灰になってしまったときに消防車をどうやって呼ぶか、その方法をこれから1年間かけてじっくり考えようではないか」と燃え上がる家を前に訳知り顔に解説しているに等しい。

 事実、今回の会議の主要な参加者は “drop”を “drops”と複数形にすることで緊急措置は全く意味がないか最良でも数年の引き伸ばしを意味するに過ぎないということに早い段階から気が付いており、筆者を前にこうした日本のあからさまな遅延戦術にあきれ果てる者すらいた。

 会議参加者の多くから、会議の結果に失望するとの声が多く寄せられた。このままでは来年開催が予定されるワシントン条約で貿易禁止提案がなされることは避けがたい。また、現状の資源状態を放置すれば、資源状態はさらに悪化する可能性があり、そうなれば沿岸の零細漁業者には経営が立ち行かなくなるものがさらに増加するであろう。漁業は地方にとって貴重な経済基盤の一つであり、沿岸漁業の衰退は、地方創生にも逆行する。加えて漁業の衰退は、離島の無人島化にも繋がる。そこに漁業と漁船と人が存在することは、離島及び沿岸海洋の防衛にとっても重要であることは、かつて戦前には鰹節工場があった尖閣列島の事例を引き合いに出すまでもないであろう。

 太平洋クロマグロは、一部の大規模漁業者の利益だけにあるのではなく、また一部の省庁の矮小な庁益のためにあるのでもない。持続可能な漁業は、全ての漁業者の長期的な利益に繋がるのみならず、地方経済の繁栄など我が国全体の利益に繋がる。「法の支配」は我が国の外交政策上の基本原則である。近視眼的、非科学的かつ国際法の諸規定の主旨をないがしろにした引き延ばし策は、我が国の資源・環境外交政策並びに漁業科学に対する信頼を損ねこそすれ、高めることはない。過去の政策の失敗をいち早く改め、我が国の国益に即した政策に変更されることを希望してやまない。

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