まさに出会った人たちによって、石垣の中の海が深く大きく広がっていき、この水族館の企画、館長就任に繋がったというわけだ。
駿河湾の禁漁期の5月から9月を除いて、石垣は週に一度は地元の底引き網船をチャーターして深海漁に出る。引き上げた網の中は、何が入っているかわからない深海の福袋。
駿河湾で捕獲したメンダコ
「すぐに必要なのは深海に近い冷たい海水と暗い場所です。網を船に上げるときの衝撃から魚を守るために船の上に海水のプールを用意して、酸欠に弱いもの、擦れや傷に弱いものなど、特性に応じて素早く対応します。人気のメンダコは、ブヨブヨでほかの生物のとげが刺さると死んでしまうので、真っ先に上げます」
深海のクラゲが網の中に入っていることもあるが、引き上げる時に網の目でちぎれてしまう。それでも諦めてはいないと笑う。バラバラになった中に生殖腺があれば再生できるのではないかと、大学と共同研究もしている。
白衣が似合う館員という雰囲気ではない。館長という肩書もあまり似つかわしくない。海と魚と人の真ん中に立つ海の手配師からは、念願の場所で生きる道をつかんだ海の男のたくましさと執念と喜びが、潮の香りのように立ちのぼっていた。
(写真:佐藤拓央)
石垣幸二(いしがき・こうじ)
1967年、静岡県生まれ。大学卒業後、会社勤務を経て2000年、観賞魚の供給会社ブルーコーナーを設立。国内外の水族館、博物館、大学に稀少な海洋生物を供給し「海の手配師」と呼ばれる。その手腕を買われ、11年、沼津港深海水族館の館長に就任した。
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