2024年7月16日(火)

家電口論

2015年9月19日

お金の話

 この古代の競技場を模したスタジアムは、1934〜1936年の建築。4200万マルクかかったそうです。強引ですが、円に換算してみましょう。当時、100マルク=40ドルですから、1680万ドル。当時の円で1ドルは、140円なので、23.5億円。ちなみに1936年の日本の国家予算額は1936年の時点で、22億8210万円。

歴史を語る写真標識

 当時の100円は、現在の64万円(物価指数より算出)に当たりますので、1504兆円。戦争時の経済というモノを正確に把握していなのですが、正直全く実感がわきません! しかしドイツ経済を完全復興させた人気絶頂のナチスの時代。しかも1000年王国ですからね。建物一つに、東洋の島国の国家予算ですか……。

 ドイツは2度W杯を開催していますが、決勝は必ずここです。ナポレオンはエジプトで戦った時、ピラミッドを指さし「歴史が我々の戦いを見ている」と言いましたが、オリンピックに、W杯2回のスタジアムはここ以外にないと思います。まさに、歴史です。

 さて、元がスゴイだけに、W杯の時の改修費もかかっています。2004年にW杯のために改修していますが、2億4200万ユーロ。1ユーロ、134円ですから、324.3億円。1000年の計で作るとお金はかかります。が、数年ではなく、100年、1000年の目でみるとどうでしょうか?

 政治家は、100年の計という言葉を使います。しかし、100年の計を立てるには、200年先のことも分かっていなければなりません。実際はどうでしょうか? 目の前のことを目の前で判断しているに過ぎない。50年後には元の木阿弥か。そんな気持ちになりますね。

 ちなみに、ベルリンオリンピックスタジアム。取り壊すことは多分無理でしょうね。取り壊し費用が膨大ですから。手を入れて使った方がイイという判断なのかも知れません。

名前と形を継ぐ日本の文化

 ここまで書いた時、一つひらめくことがありました。それは日本に古い建物は極めて少ないということです。「メガロポリス東京」と書きましたが、この東京が焼け野原になってないのは、ここ戦後の歴史です。江戸時代、大火と呼ばれるものは、267年で49回。実に5〜6年/回。生涯で、約10回火事で焼け出される計算になります。

 そして、明治以降で、2回焼け野原になっています。関東大震災と、東京大空襲ですね。つまり1945年まで、東京は何度となく災害(含人災)にみまわれ、木造建築も多く、何度となく「新しく」作り変えられてきたと言えます。

 では、日本の伝統建築とは何でしょうか? それは、伊勢神宮、出雲大社が示していると思います。数十年に一度、「名」と「形」が同じモノを建て替えることです。還暦の赤いちゃんちゃんこも同じですね。60年で干支が一巡り。生まれたての赤ちゃんに戻り、元気で過ごすように、となります。

 多分これが、日本の伝統、文化の守り方なのです。言霊信仰、そして日本人は形から入ると言われますが、災害国家日本だからこそ、遺産をそのまま残すのではなく、遺産を継承するわけです。

 この視点から見ると、ドイツとの差も見えてきます。ユーラシア大陸は旧大陸であり、ほとんど地震がありませんからね。継承より、そのまま残し、手入れをし、使う方が効率がイイというわけです。

 また、イベントの考え方も。日本のメジャーイベントは、お祭りです。この祭、基本「道」で行います。練り歩く。これが日本のエンターテイメントのスタイルの一つの形です。ようするにエリア全体、全員参加と言えます。

 人が出かけて行くのではなく、向こうから来る形のエンターテイメントです。江戸期は、自宅前の縁台を飾り、見たりして楽しんだそうです。これだと、祭で練り歩いている方も楽しめます。「お・も・て・な・し」です。しかし、今のイベントは集約型ですから、土地のない日本は辛いわけです。

日本流国立競技場

 そう考えると、割りと答えは見えます。60年に1度ですから、建てやすく、壊しやすくがコンセプトの1つです。箱物ですから、これに管理しやすいこと。動線は確保できないのですから、人数は欲張らないこと。一番手っ取り早いのは、外観は今までの国立競技場。設備に少々お金を掛けるモデルですかね。

 そして、名と形を継いだということで、その地で、幾多のスポーツの歴史があったことを刻み込むわけです。現代オリンピックは世界的な大イベントですから、エリアを区切り、全部ホコ天にし、アジア名物の屋台を並べるわけです。多分、海外の人には、お・も・て・な・しの1つに見えると思います。

 1つ1つが小さい導線は、30分待ってもらうのではなく、30分歩いてもらうのです。海外を歩くのはなかなか無い体験の1つ、面白がってもらえると思います。そうすると、1つ1つは小さいですが、網の目に張られた東京の交通網が生きて来ます。こうして日本独自の「伝統」「道」と「お祭り」を入れるわけです。

 日本人に取っては当たり前の感じですが、大上段に振りかぶるよりも、確実、しかも後で使える形になると思います。

  
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