『タカさん、事件です』
退職刑事とOL探偵の事件簿
5月9日朝7時 二段ベッドから降りようとしていたら、「イクスキューズミー。タカさんいますか?」となでしこバックパッカーのマイが部屋に飛び込んできた。
「タカさん、事件です。タカさんも知っている私の連れの韓国系アメリカ人の女学生が昨夜から部屋に戻って来ないんです。」
「そりゃ穏やかじゃないね。それでどうしたっていうの」
「昨夜一緒にレストランに行き二人でホステルにもどり最後に見かけたのが10時頃。それから外出したらしく荷物はすべてベッドの横に整理して置いてあるけど。今朝起きたらまだ戻ってなくて。何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配で。先ずはタカさんに相談しようと思って来たの。」
「そうかあ。題して“退職刑事タカとOL探偵マイの事件簿”だな。それじゃ、早速“韓国系米国女子失踪事件”の捜査にとりかかろうか」
マイはアラサーの小柄でテキパキとした性格の派遣社員であり派遣契約切れを利用して三カ月間でギリシアからポーランドまで駆け足旅行の途上。エッセイストの阿川佐和子さんにチョイ似で「日本の男子はみんな内向き志向で海外に出てゆくような気迫がまったくないのよ。私の歴代彼氏なんか全部そうよ。これじゃ少子高齢化は止まらない。」などと気炎をあげるタイプだ。韓国女子とは私も挨拶したことがあったが韓国系三世の米国人でハングルは全く話せず、見た感じは韓国の田舎の食堂の店員のようなもっさりとした雰囲気で印象に残らないタイプ。
私は土地勘があり信頼できる人物に相談したいと思ったが、そのとき咄嗟に脳裏に浮かんだのはユースホステルのオーナーのキャプテン・マノスである。彼はいわゆる土地っ子であり若い時はギリシア男の通例として船乗りとして働いてお金を貯めて、それから陸に上がり先祖代々の土地の一部を利用してホステルを建てたのである。ちなみに元船乗りの中高年にたいしては敬称としてミスターの代わりにキャプテンと呼ぶのが海外では一般的である。