宿泊しているユースホステルの横の草地がロバの野営地になっている。毎朝数十匹のロバが馬に乗った少年に先導されてシャンシャンシャンと鈴を鳴らしながら港に出勤してゆく。そして日没後の薄暗闇のなか、反対方向からシャンシャンシャンと鈴の音がするとロバたちが戻ってくるのが見える。
ある日、台湾の小学校の先生のイーチャン、カナダの大学生アリーゼの三人でユースホステルの近くの断崖の上で海に沈む夕陽を見た帰り道のことである。私は夕闇せまる草地の片隅で一匹のロバが寂しそうに草を食んでいるのを見つけた。まだ他のロバは仕事場から戻っていない。よく見るとかなり年老いており涎を垂らしながら、うなだれてやっとの思いで草を食んでいるようだった。
突然、私はそのロバがいとおしく思えた。年老いて重労働ができなくなって飼い主に捨てられてこの草地で寂しく余生を送っている。このロバはまさに私そのものだと思った瞬間にロバがこちらにゆっくりと振り向いた。
「イーチャン、アリ、あのロバを見てごらん。彼は長年重労働に耐えて生きてきて、今は孤独に余生を送っている。彼は私そのものだ。」
「そのとおりだわ。タカ、あなたはリタイアした孤独な日本のロバね」と大笑い。
(“You are exactly a lonely retired Japanese donkey,are’nt you”)
このあと私のニックネームは「オールド ドンキー タカ」になってしまった。
老いたロバと眺めた夕焼け
⇒第8回に続く
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