静かなある日の午後、遊歩道わきの小さな公園でブランコに乗っている東洋系のカップルがとても楽しそうだった。蒼い空を背景にブランコに揺られて。このマカオの新婚さんはまるで普段着で休日に近所の公園で遊んでいるような自然体の幸福感に満ちていた。
当然日本人新婚カップルにも遭遇するが、必死にお店か何かを探していたり、脇目も振らずに足早に歩いていたり、ハードスケジュールに疲れ切っていたりと、どうも話しかけにくい雰囲気のカップルを散見。
大阪から来たというある新郎は疲れた表情で「ヨーロッパはどこでも食事は口に合わないし、特にギリシア料理は脂っこいし、ホテルとかみんな不親切だし日本語は通じないし、天気は暑いか寒いかの両極端だし・・・」と散々な様子でマイルドセブンをせわしなく吸っていた。傍らの新婦は無言でガイドブックを睨みながら見落とした名所はないか必死でチェックしていた。こちらまで何かやりきれない気分に落ちこんだ。
ある時、スタイリッシュなカップルが歩いてきたので香港あたりのお金持のボンボンのカップルであろうと“ニーハオ”と声を掛けると反応がない。“アニョセヨ”と呼びかけても無反応。ついに“Where are you from?”とゆっくり尋ねるとなんと「ジャパン!」とのこと。
埼玉から来た新婚さんとのことで新郎は私の長男と同い年。思わず1年前の長男の結婚式が脳裏によみがえる。気分はすっかり新郎の父になり「両家を代表しまして一言ご挨拶をさせていただきます・・・」と諳んじていたスピーチを披露。新郎新婦はサントリーニに到着したばかりというので、さっそく“新郎の父”は俄かガイドになり遊歩道周辺をご案内。
大宮出身の新郎と池袋育ちの新婦、二人とも都会的で会話のテンポが早く滅茶苦茶楽しい。彼らのように旅の中でその瞬間その瞬間を楽しめることは一つの貴重な才能であり能力であるように思う。柔軟な思考能力や鋭敏な感受性などに恵まれているのだろう。幸せ全開の二人から“幸せのお裾分け”をいただいたひと時であった。
⇒第7回に続く
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