英政府が看板政策である公立小学校の学校給食の無償化を廃止するのでは、と保護者や学校現場が不信感を募らせている。背景には5月の総選挙で、与党・保守党が圧勝して単独過半数を得て、連立相手の自由民主党が不要になり、社会福祉の予算削減にかじを切っていることがある。だが、無償化政策はようやく1年を迎えたばかり。当事者を置き去りにした政策論議に、保護者や学校現場からは「またもや教育が政治の犠牲になる」と怒りの声が噴出している。
無償化は、保守党と、社会福祉を重視する自民党の連立政権時代に、自民党の提案で始まった経緯がある。5月の総選挙では保守党が大勝する一方、自民党は大敗。従来、企業や資産家寄りとされている保守党は、手のひらを返すように自民党の施策を切り捨てはじめた。
給食の無償化は年約600万ポンド(約110億円)かかっている。英財務省は目下、来年度予算案の作成に入っているが、無償化も国の予算を逼迫させているとみている。
無償化が始まったのは昨年9月で、公立小低学年の5-7歳の児童が対象。義務教育スタート時に食の選択と知識を習得させることが重要との政府見解を反映したものだ。従来、公立小では原則として、有料の給食、あるいは家庭で準備するパックドランチ(弁当)の二択であった。無料の給食は低所得者の家庭の児童のみ。全員が無償になったことは画期的とされ、「全員が同じ水準の食育を受けられる」と教育現場も歓迎していた。
英国では子どもの肥満が問題になる一方、貧困問題もあり温かい食事を1日に1度も口にできない児童の割合が増加。給食で児童の栄養のバランスを整えることが求められていた。無償化は栄養バランスの向上につながるうえ、家庭にとって子ども一人あたり年約400ポンド(約7万3000円)の負担軽減となる。キャメロン政権は支持率アップも狙い、人気料理家を起用した献立も用意し、肝いり政策としていた。
振り回された保護者と子供たちは、給食を政治の材料にするな、と怒っており、教員団体や医師会などが、政府に嘆願書を提出している。事態を重く見たキャメロン首相のスポークスマンは「無償化政策の重要性」を強調したものの、継続は明言しておらず、保護者らの批判は強まっている。予算が確定するまで政権にとって火だねとなりそうだ。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。