バディメソッドという言葉を使ったが、実は秘策はない。子供の特性をうまく捉えて、日々たゆみないトレーニングをするだけである。子供の特性。それは「友達より上手になりたい」という競争心と、「少しだけ難しい課題を達成したい」というチャレンジ精神である。これらは天性の子供の特質だと思う。
サマーキャンプの駅伝、石段の駆け上がり、富士登山、そして運動会の競技をやり切るだけの体力、スキル、それに精神力は、一朝一夕では身につかない。バディは先述の通り通年で様々なスポーツを行うが、その真骨頂は、毎朝9時から10時までの1時間で行う朝体操にある。朝体操とは言うがやっていることは極めてシンプル。走り込みである。最初の20〜25分でジョギングをする。年中だと大人の早歩きくらいのスピードであるが、年長になると大人並みのスピードになる。キロ6分半と言えば、ジョギングをする人ならその速さを分かっていただけると思う。ジョギングの後は、1周150メートルのグラウンドをひたすら走り込む。20分のジョギングも、走り込みも余りに辛くて泣く子もいる。先生達は「泣いて走ったらもっと辛くなるよ」とにべもない。毎朝、淡々とトレーニングは続く。
朝体操を通じて先生達は「負けるな、追い越せ、かて」と子供たちを激励する。「かて」と平仮名にしたのは「勝つ」と「克つ」の二つの意味があるからだ。前者は「人に勝つ」ことであり、後者は「己に克つ」ことである。
150メートルの走り込みは毎朝10本ほども行われる。幼稚園時代は、生まれ月による生育の差は大きい。4月前半生まれの子供と3月後半生まれの子供では、1年の差がある。そんな中、4、5月生まれの中でも走るのが早い子と、2、3月生まれでその中でも走るのが遅い子では、走り込みの際にグラウンド半周程も差がつく。実際子供たちも、自分より圧倒的に早いのは誰かを知っている。
挑戦する経験が子供を成長させる
しかし、自分よりちょっとだけしか差のない奴のことは、いつか抜いてやろうと心に強く思っている。天性の競争心を持っているからだ。9本目、10本目になるとみんなフラフラになる。足の早い子達のペースも落ちる。その間隙をぬってライバルを抜く子が出てくる。彼にとっては金星だ。彼は勝負に勝ち、大きな自信を得る。
また先生達は、毎回タイムを計る。10本全てでタイムを落とすことなく走り切ったか、また昨日より速いタイムで走ることができたか。子供たちは毎回自分と勝負する。当然時間の経過と共にタイムは上がる。4月より5月、そして運動会の行われる10月にもなると、タイムは相当向上する。肉体的成長に伴う当然の帰結であるのだが、子供たちは日々の練習の成果だと認識する。当初は無理だと思っていたタイム設定(課題)をクリアし、「自分に克った」ことを誇りに思うのである。
このような練習を積んだ子どもたちは本番で結果を出す。かけっこでは多くの子供が自己ベストを出すし、ジョギングが辛くて泣いていたような子供でも、チームの勝負のかかった駅伝やリレーでは気迫のレースを見せる。走るのが学年で最も遅いグループに属する子供がいる。彼はサマーキャンプの駅伝の際、前日の雨でぬかるんだ場所で足を滑らせ、靴が片方脱げてしまった。しかし彼はそこで靴をはき直したらタイムに影響すると判断したのであろう。片方裸足で1キロを走り抜いてタスキを繋いだのである。感動的な光景であった。
勝つ子がいれば負ける子がいる。普段は勝つ相手に本番で負ける子もいる。走るのが早い子なのにバトンを落としてしまい、それでチームが負けることもある。子供たちは地団太を踏んで悔しがり、そして号泣する。先生達も一緒に泣いてくれながらこうアドバイスする。「次のレースで勝て(克て)」と。
幼稚園のかけっこ反対派の人はどんなコメントをするであろうか?