2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2015年11月21日

 さて私は2014年の12月に「『選択肢』をもって『人生を経営』する」という本を出した。今年50歳の私は、半沢直樹でおなじみの池井戸潤氏の小説、「俺たちバブル入行組」と同世代。バブル経済ピーク時に就活し、何の苦労もなく就活して社会人になったのはいいのだが、入社したとたんにバブル崩壊。その後は、「失われた20年」という日本経済の困難期の中で社会人生活を送ってきた。

年長クラスの父母リレーのメンバーは予選会を行って選抜。親もアツい

 バブル崩壊、不良債権の累積、大手銀行の破綻、公的資金の注入、銀行の貸剥がしと中小企業の破綻、自殺者増加、ベアゼロ回答、早期退職勧奨、新入社員採用抑制、就職氷河期、正社員から派遣への移行、リーマンショック、派遣切り、テント村、デフレスパイラル、そして東日本大震災。

 よくもこれだけのことがこの20年間発生したものだと思う。今、アベノミクスの中で再生を目指す日本経済だが、再生を果たせるのも、様々な創意工夫で苦境を乗り切ってきた日本企業の強さがあるからだ。そこは日本人として誇りに思うことだが、一方で、そのような「創意工夫」は何らかの代償を伴ってきたことは言うまでもない。それは突然のリストラであり、給与や退職金のカットであり、正社員にするよという約束の反故であったりしたのだ。

 そのような「想定外」の経験をされた方も少なくないと思うが、我々は自分の人生において、特に経済活動面で発生する「想定外」への準備が、案外できていないのではないかという思いで筆を取った。

 その本の中で述べているテーマは、

•    決して公平ではなく、そして『想定外』の事態も頻発するこの世の中を、生き抜く力を持とう

 •    どんな場面に遭遇しても対処できるような『選択肢』を複数持って、自分の『人生の経営』をしていこう

 •    選択肢を持つ、とは多くの人から選択されることと対であり、付加価値を生み出す能力とイコールである。そしてその能力はグローバルで評価される

ということだ。

 ビジネスマンとして30代・40代で何をしたらよいかを論じた本であるが、後段で子育て論についても言及した。将来に選択肢を持てるような大人になるために、そして決して公平でなく、想定外のことも頻繁に発生するこの世の中を生き抜く力を持つために、私たち大人が子供に何をしてあげられるか、という視点を述べたのだ。

想定外を生き抜く力を身につける

 失われた20年のなかで発生したような想定外のイベントが度重なると、我々は必然プロテクティブになり大切なものを守ろうとする。それは家族であり、子供である。自分を犠牲にしても、子供の学費だけは捻出したい。それは親として当然の想いであろう。

 しかし皮肉な現実がある。若年無就労者の増加である。

 親の庇護の下、大学まで進学した学生が、就職に直面して何回か不採用通知を受けたのちに、突然心が折れてしまい、引きこもりになる。就職しても、そこで本意でないことがあるとすぐに退職する。就労経験が短いものだから何度転職しても補助的な仕事しか任せてもらえず、それに嫌気してまた転職。フリーターに身を落とし、そして引きこもりへ。

 このような若年未就労者が増えているのである。そのような若年未就労の実態をドキュメントしたNHKの番組を見たことがあるが、そこである引きこもりの学生が語った言葉は衝撃的であった。

 「もう少し苦労をしてくればよかった」

 過酷な経済環境の下、親はそれこそ必死に生き延びようとし、その中で自分が蒙っている災禍は子供にだけは経験させまいとしているのに、当の子供はその庇護の下で「苦労すればよかった、そうであればこんな引きもりにならずに済んだ」と考えているこの悲劇。

 こういう現実を見るにつけ、私たちの世代が正しいと思っていた子育てのやり方が、子供たちの「生きる力」を実は与えていないのではないかないかと考えてしまう。

 「飯が喰える大人になる」、「世界で喰っていく子供を育てる」

 こういうタイトルの本が多く出ている。私も何冊か読んだし、読んだものはどれも共感できる内容であった。飯を喰うのみならず、この世に新しい価値を生んでいける人間。そしてその結果として様々な選択肢を保有しながら、人生の難局をたくましく乗り切っていける人間はどうやって育ってくるのだろうか。

 言うまでもなく、人生というのは勝負の連続だ。選抜試験含めて他人と勝負する場面が往々にしてある。しかし、他人との勝負以上に常に対峙しなければならないのは、自分との勝負である。

 「勝つ」と「克つ」

 人生の中で発生してくる様々な勝負に、絶対負けないと思う心を持つこと。そんな心は、人生の試練に直面しても決して折れることがない。そしてその強い心こそが、人生を生き抜く根幹となるのだと思う。

 メディアが取り上げるように、スポーツのスキルが高い子供を輩出するのもバディであるが、同時に強い心を育てることを実践しているのもバディである。不確実性が高い世の中を生き抜き、そしてグローバルに活躍する人材を育てるためにも、後者の方こそバディの神髄として強調されるべきではないかと強く思う。

 さて、今年の運動会も見どころ満載であった。私のTシャツは興奮の汗と、感動の涙に濡れた。

 子供たちは、誰にも負けぬと熱い闘志をたぎらせて、チームを勝たせようと靴が脱げても裸足で懸命に走り続ける。負けて号泣しても、泣いたそばから明日のレースに向けて走り始めるのだ。

 子供たちよ。明日は毎日やってくる。そして君たちはいつだって昨日の自分には勝って(克って)いるのだ。そんな強い君たちが、明日の世界を導くのだと父は信じている。


新着記事

»もっと見る