「敗者に惹かれるといいましたが、『滅びの美学』は好きではありません。信繁は、死に花をさかせるためではなく、あくまでも勝つつもりで大阪城に入ったと思いたい」と、三谷はいう。
真田家の前には、幾つもの分かれ道が待ち受けている。「関ケ原」の戦の前には、佐野の犬伏の地で、父親の昌幸(草刈正雄)と兄の信幸(大泉洋)、信繁(堺雅人)が会談して、昌幸と信繁は石田三成方に、信幸は家康方につくことを決める。
映画などで「三谷組」と呼ばれる、常連の俳優たちが脇を固めているのも、ドラマの展開を三谷らしい自由自在にしていくことだろう。
昌幸(草刈正雄)と敵対する武将の室賀正武に西村雅彦が、秀吉の正室・寧(ねい)に鈴木京香が配されている。
信繁の兄として物語のなかで存在感を示す、信幸役の大泉洋は、映画「清須会議」(2013年)で秀吉を演じた。同じ映画で、丹羽長秀を演じた、小日向文世は今回、秀吉である。
喜劇作家としてみられる三谷であるが、その作品はユーモアの味付けが少々加えられているとはいえ、人間の権力欲や所有欲、愛欲など逃れられない「業(ごう)」に切り込む作家である、と思う。
「ザ・マジックアワー」(2008年)は、太陽が沈む刹那の残光のなかに照らし出される美しい風景が現れる時間を、人生に重ねている。劇中劇ともいえる古い映画のなかで、主役を演じた柳澤眞一が、いまでは老人となってコマーシャルの登場人物となっている。それでも、また主役を演じる夢を抱いている。
夢見ることは、美しい。そんなマジックアワーのセットのライティングは、物語のすべてを現しているようである。
時代の流れと大河人気の相関関係
大河ドラマは、制作者の意図を超えて時代の象徴となる。逆に、時代の流れと異なるときには、あまり話題にならない。
前作「花燃ゆ」の視聴率の低迷は、主役の井上真央のせいではない。司馬遼太郎がいう「坂の上の雲」を目指した明治維新の時代相は、現代と不具合をきたしている。
「賊軍の昭和史」(2015年、半藤一利・保阪正康)が話題になったように、維新を成し遂げた薩長閥が太平洋戦争をはじめ、総理だった鈴木貫太郎らかつての賊軍の出身者が終戦に持ち込んだという、歴史の見直しがなされている。
そして、いま時代はその先行きが、ますます不透明となって読めない。メディアは「老人破たん」を声高に報じるが、その対策は示し得ない。
時代の動向を感じられない劇作家はいない。三谷の「真田丸」は家族が、この時代をいかにして生き抜くか、というテーマが底に流れているようにみえる。
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