2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年1月27日

本格化し始めた国防省の対中戦略

 上記インタビューで、マンケン教授は、中国の急速な台頭が、米海軍のありかたに大きな影響をあたえていると述べています。

 マンケン教授は、特にA2/ADの挑戦に立ち向かう必要があり、そのために米国の技術的優越を死守することが重要であると述べていますが、これは、国防省の考えと軌を一にするものです。精密誘導兵器やセンサー、指揮統制能力の拡大により、航空機や水上艦が徐々に脆弱になってきているなかで、レーザー兵器やレールガンの実用化に力を入れているのは、A2/ADを念頭に置いた米海軍の新しい戦略です。

 米政府はアジア・リバランスを明らかにしましたが、このような米海軍の新戦略は、米海軍がアジア・リバランスを実施していることに他なりません。アジア・リバランスはいろいろな側面がありますが、米海軍のアジア・リバランスは、対中戦略の核心です。それは選択によるリバランスではなく、アジアにおける中国の軍事的優位を許さないという、必要に迫られたリバランスです。

 この戦略の裏付けとなるFY2016の国防予算は、一度オバマ大統領の拒否権に直面したものの、最終的には当初要求の99%を満たす計6068億ドルが授権されるに至っています。南シナ海問題やアジア・リバランスの実効性など、オバマ政権の政策には批判的見方も少なくありませんが、今回の国防予算の成立を鑑みるに、将来の対決をも視野にいれた国防省の対中政策はいよいよ本格化し始めていると言えましょう。

 トマス・マンケン教授は、日本での知名度は決して高くありませんが、かつて政策企画担当の国防次官補代理を務め、過去にはQDR(4年ごとの国防見直し)やNDS(国家防衛戦略)の立案にも携わった米戦略コミュニティの中心人物の1人です。それを象徴するように、来る3月にはアンドリュー・クレピネビッチの後任として、CSBA(Center for Strategic and Budgetary Assessment)の新代表に就任することが決まっています。

  
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