青年は私に気づくときさくに挨拶した。彼はカナダの建築家でカルガリーの建設会社に勤務、20日間の休暇を取得してベトナムを旅行中だった。私が日本人と知ると地震建築学会で出会った日本人学者や日本の最新耐震技術について称賛した。カナダの西海岸はカリフォルニアと地質構造的に繋がっていて、彼の会社ではカナダの西海岸の建物に耐震工事を展開することに注力していた。そのため休暇期間中もパソコンを持参してカナダの本社から技術的照会があれば対応しているという。
青年は見た感じ26~7歳、ハンサムで爽やかなスポーツマンタイプ、しかも優秀な若手建築家のようである。彼がジュリエットに積極的にアプローチしているが、第三者から見れば二人は“お似合い”なのだろう。客観的にみれば悔しいがオジサンが介入する余地はない。
青年はニャチャンのリゾートビーチで数日過ごす計画だった。ジュリエットに一緒にニャチャンでバスを降りてリゾートへ行こうと熱心に誘っている。ホテルは予約していないので二人で素敵なホテルを探してブルー・ラグーンで一緒に泳ごうと口説いている。欧米系一人旅女子であれば80%超の確率でこのハンサムな青年の誘いにOKすると思われた。
同じテーブルなので青年の誘い文句が一言一句明瞭に聞き取れる。日本人の感覚からするとかなり強引で露骨な誘い方である。ジュリエットが青年の英語がよく理解できず青年の思惑を深く考えずにOKしてしまわないか、私は内心ハラハラと心配していた。結局ジュリエットはおずおずと「予定どおり南のビーチに行きます」と青年の申し出を断ったが、なにかやりきれない苦い思いが残った。