2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年3月8日

 1月30日の第二回目の航行の自由作戦は、領海の有無ではなく領海の中味に関する中国の立場)に真っ向から挑戦するという点で、第一回目より法的意味合いはより直截である、との論説の指摘はその通りでしょう。

今回の作戦の背景に透ける歴史的経緯

 しかし、問題は領海の線引きと無害通航だけに限られません。この記事は言及していませんが、中国がこの島を実効支配するようになった歴史的経緯にも注意が必要です。トリトン島は、元来、南ベトナムが実行支配していました。しかし、1974年に中国が銃撃戦により同島を含むパラセル諸島の全島を自らの支配下に置きました。その後統一されたベトナムが中国にこの件を提起してきましたが問題は解決されず今日に至っています。米国は領土紛争については判断を明らかにしないとの原則論を維持していますが、今回の作戦の実施決断にはこのような歴史的背景もあるかもしれません。ここ数十年の中国の一貫した「振る舞い」が問題なのです。1月に公表されたCSISの『アジア太平洋リバランス報告』も、2030年までに南シナ海が事実上中国の湖になる危険がある旨を警告しています。

 今回作戦への中国の反応が厳しかったと見るか、抑制的だったと見るか、見方は分かれます。筆者は厳しかったと見ており、一層厳しくなる可能性があると指摘します。他方、中国の言明にもかかわらず、中国による追尾はなかったと米国防省は明らかにしています。対中警戒心が高まる国際政治状況や上記の歴史的経緯などを考えれば、中国の立場は完全ではありません。中国としては、公的立場は強く維持しつつも、現状を既成事実化し問題がこれ以上大きくなることは当面避けることが有利と考えているかもしれません。

 米国が航行の自由作戦を継続していくことが、妥当かつ必要なことです。ハリス太平洋軍司令官の「作戦の複雑さと範囲は今後増大するだろう」との発言は示唆的です。二回目の作戦はもっと早く行われるべきだった、との批判があります。バラク・オバマ大統領が軍部による計画を抑えていたとも報じられています。米議会ではジョン・マケイン議員などが早期に実施すべきとオバマを批判していました。2月15-16日の米ASEAN首脳会議の開催がオバマの決断を促したと見方もあります。ともあれ、二回目の作戦が実施されたことには意味があります。

  
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