2024年11月23日(土)

Wedge REPORT

2016年3月5日

 繰り返すが、設問で設定された日付の日に金星は事実、ウの位置にいたのであり、解答が間違っているだけである。その後も、同じ設問の問2以降で、金星が東方最大離角や内合の位置に来る日付が示されている。それらも、実際の事実通りの日付になっている。

 また、金星の公転周期も記されていて、高校で教える内容ではあるが、それらの情報を元に会合周期を求めれば、やはり、解答は事実通り「ウ」となるのである。高校で教えるような式を使って考えた生徒はほとんどいないかも知れないが、論理的に考えれば到達できる加減乗除だけの式であり、これらの情報から確信を持って「ウ」を選択した生徒がいた可能性も十分に考えられる。「ウ」を×にしたままでは、学問的良心を守れないと都教委は考えるべきである。

 間違った解答に導くような、微妙な図2のスケッチを示したことで、本当の金星のその日の位置ではない「イ」も正解にしなければならなくなったのである。それでも、図2のスケッチは「ウ」を否定しきれるほどのものではなく、図1の状況に最も近い金星の位置はそもそも「ウ」なのだから、「ウ」と答えた生徒にも4点を加点するのは当然だろう。ぎりぎり不合格になってしまった生徒のうち、この設問で「ウ」と答えていた生徒については、すぐに4点を加点して合否判定をやり直してあげるべきだろう。

2年前にも同じようなことがあった

 東京都立の入試問題では、2年前も同じようなことがあった。詳細は下記をご覧いただきたい。

「防災の日に思う 地学教育を空洞化させた文科省と教育委員会の責任は重い」(WEDGE Infinity 2014年9月1日記事)

 2年前の天文の問題も、正答は二つある、と考えられる設問だったが、結局、都教委は、合格発表の前日になって、全員を正解にするという対応を決断し、各高校の現場では、採点と合否判定をやり直すというドタバタ劇になった。このときの反省が全く生かされていない。

 このような場合は、一般的に反省すべきは、設問の作成者個人ではなく、都教委のマネージメントである。人は誰でも間違えるのであるから、それが大事に至らないように設問の作成者を複数のチームにするなどの工夫はもちろん、もし間違いが見つかった場合でも、実害を最小限に抑えるための迅速で適切な判断ができるクライシスマネージメントが求められる。

 一般的には、今回のようなケースでは、合格発表までの間に様々な指摘が都教委に対してなされていたはずで、迅速に対応していれば、このような結果にはならなかったはずだ。

 にもかかわらず、このような結果になってしまうのはなぜか。

 それは、上記リンクの2014年9月1日の記事にも書いたが、「地学」という教科の空洞化が原因だろう。

 小学校教員から大学教員まで、ほとんどの理科教員の専門は、物理か化学か生物であり、地学が専門の教員は少ない。そのような状況が長期間続くと、中学や高校でも、この設問はおかしい、と言える理科教員が極めて少なくなってしまっているのである。

 背景には、文科省の長年にわたる地学の軽視がある。地学の設問を吟味するためのチームを構成するだけの理科教員がいない、間違いがあっても指摘できる理科教員も少ない、指摘されてもその内容を理解できる理科教員が都教委にもいない、というような負のスパイラルが起こってしまっている。

 文科省は、ことの深刻さに気付き、泥沼化している地学の空洞化と教育水準の低下に歯止めをかける方策を至急に検討すべきだ。

 まずは、都教委である。合否判定のやり直しまでにあまりに時間がかかってしまったら、本来合格だった生徒も、別の高校を受験して、そちらへの進学準備を始めていくことになる。

 都教委には、受験生たちにとって公平な決断を一刻も早くお願いしたい。


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