2024年4月24日(水)

Wedge REPORT

2016年3月8日

保険会社に対するケア

 短期金融市場や10年物までの国債の利回りがマイナスになり、日本円の金利全体が下方向に押し下げられるという事態は、お金を運用する者に大きな打撃を与え、お金を借りる者に大きな恩恵を与える。前者の代表は金融機関であり、日本円を大量に抱える日本の家計であり、後者の代表は最大の借り手である日本政府である。マイナス金利導入にあたっては、銀行に与えるダメージを抑えるための措置が検討され、一定額まではマイナス金利の適用を免れる階層構造が導入された。一方で、個人的に懸念するのは保険会社に対するケアがあまり検討されていない点だ。

 資金の調達と運用の構造としては本来、銀行よりも保険会社に大きな影響を与えるのが今回のマイナス金利導入だ。銀行は短期調達/長期運用(分りやすく極端な例で言うなら、明日にでも返済しなくてはならないかもしれない普通預金でお金を集めて、長期間の融資や長期国債などで運用する)、保険会社は長期調達/短期運用(分りやすく極端な例で言うなら、長期契約の保険でお金を集めて、支払いは遠い将来に発生し、運用はそれよりも短い期間のもので行う)、という特徴がある。

 1990年以降の金利低下局面では、保険会社の資金運用が大幅に悪化し、バブル期までの高金利下での保険契約に対する支払いが困難になって、保険会社の破たんや経営危機が相次いだ。もちろん、そうしたことを繰り返さないため、以降の保険会社は調達と運用の期間のギャップを埋める努力をしてきた。それでも調達サイドと運用サイドが100%一致するところまでは行っていないため、ギャップがあり、そのギャップが保険会社の負担を生み、経営にのしかかる。

 念のために申し上げておくが、保険会社各社は今回のマイナス金利導入以後、新規申し込み分の保険料率の引き上げや募集停止などを発表しているが、それらは既存の保険契約の保険料率が今になって引き上げられたり、利率が引き下げられたりするものではない。裏を返せば、こんなマイナス金利の状況下である程度の利回りが確保されている既存の保険契約は保険契約者としてはありがたい限りだが、保険会社にとってみれば約束を守るためには身銭を切らなくてはならないということだ。

 2%の利率を約束し、0.5%でしか運用できなければその差の1.5%分を保険会社が補う必要があり(もちろん複利で)、そうした負担がかさんでくれば保険会社の懐事情が厳しくなるのは当然のことで、結果として保険会社が破たんしたり、破たんを避けるために既存契約の利率引き下げを余儀なくされる可能性はある。つまり、既存契約であっても今後も絶対に安全というわけではない。もちろん、セーフティーネットもあるが、それにも限界があり、各社が軒並み、ということになれば全てを救済し切れるわけではないのでやはり絶対に安全とは言い切れない。

 このように、マイナス金利の導入や日銀の国債買入などによる金利の大幅低下で、銀行も保険会社も安全性の高い運用が難しくなり、頭を悩ませている。お金のプロであっても、有効な解決策を見出すのは難しいのだ。


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