軍学をまじめに勉強すれば、だれでも名参謀になれるか。
経営学をまじめに勉強しても、だれもが名経営者になれるわけではない。
「負ケヌ気ト油断セザル心アル人ハ、無識ナリトモ、用兵家タルヲ得」
アメリカ留学中の秋山真之海軍大尉は、自戒のことば30条をビゲロー著『戦略原理』のうらトビラに書き付けました。その第2条です。真之ときに31歳。
この条をひっくり返して読みましょう。
軍学の知識があっても、負けぬ気と油断しない心を欠く人は、用兵家になれない。
では、真之の「負けぬ気と油断せざる心」はどのようにして養われたのか。
すべては天の時、地の利、人の和で決まるといいます。
そこでまず、天の時です。
自分の生まれた環境を味方にできるか
秋山真之は明治元年3月20日に生まれました。
「太平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯(しはい)で夜も眠れず」
銘茶の上喜撰と、米海軍ペリー提督ひきいる四隻の蒸気船をかけた川柳です。
植民地の争奪に乗出した欧米列強に囲まれて、明治日本は油断するどころではなかった。戦々恐々、「尊皇攘夷」から「富国強兵」」へ君子豹変します。この明治の油断せざる時代精神が三八年をかけて、日本海海戦の名参謀秋山真之を育てました。 まさに明治維新の申し子です。本人にもその自覚があった。
平成のいま、38歳の方は1970年前後、昭和45年の大阪エクスポのころにお生まれのはずです。ご自分の生まれた年、天の時をどう意義づけるか。
エクスポの年、日本の将来は輝いてまぶしいほどでした。楽観の気分が広がります。ところが、あとがいけない。バブルからバースト、さらに世界金融大恐慌と油断の連続でした。
もうさすがに懲りたでしょう。エクスポ世代は「油断せざる心」をもつて、新たな時代と地平を切り拓いていただきたい。