前向きに読み解く経済の裏側

2016年4月28日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

 今後についても、労働力不足が深刻化してゆくと、ワーキング・プアの待遇は改善を続けるでしょうし、ブラック企業も淘汰されていくはずです。ブラック企業が存在できているのは、「辞めたら失業してしまう」と考えた社員が我慢して働き続けているからです。彼等が「辞めても、どこか雇ってくれるだろう」と考えて退職するようになれば、ブラック企業は社員がいなくなって淘汰されていくのです。これも素晴らしいことでしょう。

インフレ率の目標も遠からず実現する?

 黒田日銀総裁は、就任に際して2年でインフレ率を2%にすると宣言しましたが、就任して3年経ってもインフレ率は概ねゼロのままです。総裁の見通しが外れた理由は二つです。

 第一は、リフレ派である総裁が「金融を緩和すれば世の中に資金が出回るからインフレになる」と予想した事が誤りだった事です。日銀が札束を銀行に送りつけても、銀行がそれを貸出に廻さず、日銀に送り返して来たので、世の中に資金が出回らなかったのです。銀行員には容易に予測できた事ですが、理論偏重で現実を見つめない経済学者等には別の世界が見えていた、という事でしょう。

 第二は、原油価格をはじめとする資源価格が暴落して輸入物価が下がったことです。これは日銀のせいではありませんから、黒田総裁を批判する際にはここを割り引く必要があります。エネルギーを除く消費者物価指数は前年比1%程度のプラスとなっていますから、総裁の目標は、すでに半分程度は達成されていると考えるべきでしょう。

 リフレ派の想定がはずれ、世の中に資金が出回らなかったとしても、景気が回復すれば物価は上がります。ただ、それには長い時間がかかります。

 不況期には、正社員が社内でヒマにしていますので、景気回復初期には正社員が忙しく働くようになるだけで、何も変わりません。景気が回復を続けると、企業は非正規社員を募集しはじめますが、世の中には失業者などが大勢いるため、安い賃金で好きなだけ働き手を集めることができます。

 さらに景気が回復すると、ようやく労働力需給が引き締まり、非正規職員の時給が上昇しはじめます。しかし、この段階では、正社員の給料は上がりません。非正規職員は時給を上げないと人数が確保できませんが、正社員は「釣った魚」なので賃上げの必要が無いからです。この頃は企業収益が絶好調なので、非正規職員の時給上昇など企業は気にしません。社員が全員忙しく働いていて一人当たりの生産量は多く、しかも非正規職員の比率が結構高いので、一人当たりの人件費はそれほど高くないからです。

 さらに景気が回復を続けると、非正規職員の時給が大きく上昇するのみならず正社員の給料も上がってきます。そうなって始めて本格的な賃金インフレになるわけです。アベノミクスが始まって3年経ちましたが、ようやくこの段階に近づきつつある、という事でしょう。

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