2024年12月22日(日)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2016年4月25日

 いま中国で最も我々日本人が見るべき映画を撮っている監督は、ジャ・ジャンクー監督をおいて、ほかに余人を挙げるのは難しい。その最新作「山河ノスタルジア(原題:山河故人)」が23日から東京など全国各地で順次公開されている。その作品の舞台となるのは、中国における貧富の格差や腐敗などが最も如実に表れているとされる中国の山西省である。

劇的な格差のある山西省

© Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

 ジャ監督は1970年生まれ、北京電影学院で映画製作を始め、卒業制作「一瞬の夢」が国際的に注目される。長江ダムに水没する地域の人々を描いた「長江哀歌」がヴェネチア映画賞でグランプリを獲得。中国で実際に起きた暴力事件を描いた「罪の手ざわり」はカンヌ映画祭で脚本賞を受賞している。

 山西省はジャ監督の故郷でもあり、常にジャ監督映画で登場する。東京で会ったジャ監督はこんな風に、山西にこだわる理由を論じた。

 「私の経験もたくさん、この映画には入っています。私のよく知る土地なので服装、方言などもより描きやすいし、私自身の山西での経験もたっぷりこの作品に入っています。山西は、中国の省別GDPでは第二位なのですが、貧しい人もたくさんいる省です。上海にも金持ちはたくさんいますが、全体に豊かさもあります。ごく少数の富者と大量の貧者がいて、これだけの劇的な格差があるような土地として山西を選びました」

 本作では山西省の汾陽という土地が舞台となっている。汾陽は、山西省の中部あたりに位置しており、中国でも指折りの名酒・汾酒の産地としても知られている。汾酒はアルコール濃度が50〜60度ぐらいあり、高粱を原料とする白酒だ。筆者も何度か飲んだことがあるが、同じ白酒のなかでも、東北地方などの白酒と比べてたいへん飲みやすく、香りや後味がまったく押しつけがましくない。中国最古の酒の一つとされるだけあって時の洗練が効いているのかなと思わせる。映画のなかでも登場人物たちが酌み交わす酒は、間違いなくこの汾酒であろう。


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