急成長を実現させたのが中国EC最大手アリババの「天猫国際(Tモール・グローバル)」、2位の京東集団のJDワールドワイドなど大手EC企業による越境ECサイトの開設だ。彼らが目をつけたのは保税区を使った越境ECのスキーム。保税区に海外から商品を持ち込む時点では関税がかからないことを利用し、各EC企業は、ネットショップを通じて注文を受けると、保税区の倉庫から宅配便で発送する。
消費者から見れば、越境ECとはお手軽かつ比較的安価に信頼性の高い海外商品が購入できる仕組みだ。海外企業にとっても低コストで中国向けビジネスを展開できるというメリットがある。輸入販売や物流にかかわる新興企業が続々誕生し、新たな雇用を生み出す効果もある。
一方で越境ECは中国企業、小売り業の需要を奪う存在でもある。中国の李克強首相は3月の全国人民代表大会政府活動報告で越境ECは成長スポットとして言及しつつ、あくまで輸出促進という観点にとどまり、輸入については触れなかった。
中国政府が狙う「インターネット・プラス」
中国政府は新たな成長分野として「インターネット・プラス」を提唱し、ITを活用した新たな産業の保護、育成に努めている。越境ECもその一つだ。しかし業界関係者は保護から規制へと政府の方針が急変する可能性もあるとの不安感をぬぐいされないできた。
転売を目的として大量に商品を仕入れても関税を逃れていること。越境ECによる輸入が昨今問題となっている資本流出につながること、そして中国小売業の売り上げを奪っていること。この3つの理由があるだけに規制に転じても不思議ではないと考えられてきた。
実際に中国国家外貨管理局は1月から、中国国内に口座を持つ人々が持つ「銀聯カード」で、海外において外貨を引き出す際の上限額を、最高10万元(170万円)までと規制。ついに引き締めが始まったとの警戒感が高まった。
そして4月8日、越境EC業界に大きな反響を呼んだ新規定が導入された。財政部、税関総署、国家税務総局連名の通達だ。まず行郵税が従来の10~50%から15~60%に改訂された。 保税区スキームを使った越境ECにおいて、今後は行郵税を適用せず、国内取引同様に増値税、消費税(奢侈税)を支払うことが求められる。ただし税率は国内取引の70%と低く抑えられたため、12~33%程度となる。
影響が大きいと見られるのは付帯条件で、税額50元以下の商品への非課税措置が撤廃された。これまでは税額20%の品種の場合、売値250元までの商品は非課税となってきた。撤廃によって人気である日用品の価格が10%以上上がることになる。
またポジティブリストが導入され、保税区スキームが適用できるのはリストに記載された品種のみと規定された。加えて化粧品に関しては事前に当局への登記が義務づけられたため、海外で販売されている商品をそのまま輸入できるという「手軽さ」が失われてしまった。煩雑な登記を避けて、日本からの直送が再び主流になる可能性もある。