ここで最初の「大統領専用車」の話に戻るのだが、米国では炭疽菌を郵便で送りつける、というテロ事件が起こったことがある。炭疽菌の直径は1ミクロン前後で、HEPAフィルターがろ過する能力の範囲内にある。炭疽菌に限らず、ほとんどのバクテリアはHEPAフィルターで阻止できる。たとえ生物化学兵器が使用されても、モデルX内部にいる限り生命は保証されるということになる。
燃費が悪いオバマ大統領の専用車
米国の大統領専用車は歴史的にフォード・リンカーンあるいはGMキャデラックのリムジンの改造型が使われてきた。ジョン・F・ケネディ大統領が乗っていたのはリンカーン・コンチネンタル、ビル・クリントン大統領はキャデラック・フリートウッド、ブッシュ大統領はキャデラック・デビールだ。最新の専用車、つまりオバマ大統領のものはキャデラックだが、CTSとエスカレードをミックスしたような内容で、完全なオリジナル。特に黒人初の大統領という点でテロ対策に神経が使われており、厚さ130ミリの防弾ガラスを装備、そのため総重量は9トン近い、と言われる。当然ながら燃費は非常に悪く、1ガロン当たり4マイル程度しか走らない、という。
環境保護を訴えEVを促進してきた大統領として、いくら安全のためとはいえこれは頂けない数字だ。その点モデルXならばEVだからガソリンを使わない、しかも生物化学兵器にも対応できる。大統領車両としては理想的な1台になる可能性がある。テスラがこれを意識して昨年にバイオモードを発表したのかは不明だが、マスク氏率いるスペースXはこれまでユナイテッド・ローンチ・アライアンスの独占状態だった軍の衛星事業に訴訟を起こしてまで参加、ついに空軍の通信衛星打ち上げの契約を勝ち取った。GMとフォードの寡占状態だった大統領専用車に名乗りをあげる可能性も決してゼロとは言えない。
しかしながら、テロ対策の専門家によると、バイオモードは「万能」ではない、という。バクテリアならば阻止できるHEPAフィルターだが、ウィルスとなると話は別なのだ。ウィルスの中には直径が数十ナノメーターというサイズのものも多く、HEPAフィルターの網をすり抜ける。また放射能を避けることはできない。