昨年11月に英国の財政研究所が発表した報告書は衝撃的だ。社会経済的地位を5段階に分けてみると、下位20%に属する中国系英国人の大学進学率は65・5%。白人の英国人は12・8%で、人種別では最も悪い数字だった。上位20%に属する白人の英国人の大学進学率は54・8%で、下位20%に属する中国系英国人のそれより低かった。ロンドンの公立進学校には白人が1人もいないという学級もある。大学や大学院など高等教育を売り物に留学生を集める英国で、低学歴の白人が量産されているのが皮肉な現実なのだ。
逆に、欧州統合を最も支持する地域の5位に入ったロンドンのカムデン区。世界各国のエスニック料理やファッションが集まるカムデン・タウンは多文化、多民族、若者のるつぼだ。今ここにフィンテックなどICT(情報通信技術)を駆使したスタートアップがひしめき、コワーキング・スペースが活気を呈している。その一つ「インターチェンジ」を訪れると、女性社長バネッサ・ブッズさんに「時間と機会を逃さないで。カムデンには才能と志、チャンスと資本が渦巻いているのよ」と発破を掛けられた。
ヘイバリング区と違って、ここでは時間も人も前へ、未来へと突き進んでいる。世界最強の棋士の1人、韓国の李セドル9段に勝ち越した人工知能「アルファ碁」を誕生させたイースト・ロンドン・テクシティ(通称シリコン・ラウンドアバウト)に続けといわんばかりの熱気だ。「アルファ碁」を開発した「グーグル・ディープマインド」の共同創業者3人はギリシャ系キプロス人と中国系シンガポール人の血を引く英国人、イスラム系英国人、ニュージーランド出身者で、「ホワイト・イングリッシュ」は1人もいない。
「英国がEUを離脱したら、混乱を脱するのに10年。後悔するのに10年。EU再加盟を申請するのに10年。再加盟が認められるのに10年。元に戻るまでに計40年はかかります」。英国の元外交官でEU閣僚理事会の対外関係総局長、欧州対外活動庁カウンセラーなどを歴任したロバート・クーパー氏はこんな見通しを筆者に語る。クーパー氏は05年、英誌プロスペクトで「世界最高の知性100人」に選ばれた傑物だ。
米国のトランプ現象と同様に、それでも英国の有権者がEU離脱を選択するとしたら、「ホワイト・イングリッシュ」の逆噴射は英国に計り知れない打撃を与えるだろう。その影響は欧州にとどまらず、国際社会に及ぶのは必至である。EU国民投票は、日本にとっても決して他人事ではない、過去か未来かの二者択一なのだ。
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