2024年11月22日(金)

サイバー空間の権力論

2016年6月6日

 生体認証で最もベーシックなものは指紋認証だが、技術そのものは古くから存在している。しかし基本的に膨大な指紋データから自分の指紋を照合するため、時間がかかるのが問題だった。現在では指紋の特徴などから照合時間が簡略化され、指紋認証までの時間は格段に短縮されている。しかし、指紋認証技術はあくまでも一つのサービスごとに自分の指紋を登録する必要がある。したがって、銀行などで印鑑=パスワードの代替物として指紋を利用するシステムはあるが、こうした技術では自分が登録したサービスに利用が限定される。

 だが、指紋情報そのものは暗号化し、暗号化された情報だけで認証可能な技術があればどうか。そうすれば、一度生体情報を登録することで様々なサービスが利用可能となる。例えばアップルやグーグルに一度生体情報を登録するとしよう。すると、彼らの独自サーバーだけで暗号化された生体情報が認証される。この技術を用いれば、提携した飲食店や銀行などの複数の企業に対して、自分の生体情報は登録せずにサービスを受けることが可能になる、といったことを想像してほしい。あるいは人々の財布を膨らましているポイントカードやクレジットカードも、この技術を用いればカードが不要となり、自分の身体がそれらの代わりとなるシステム、といってもいいだろう。つまり、生体情報を一つのサービス(1対1)ではなく、1対多数のサービスに応用させるということであり、自らの身体がカードや紙幣の代わりとなるわけだ。

 実際に日本のLiquid社は上述のような技術を用いて、池袋で訪日外国人に向けた認証実験を行っている(http://japanese.engadget.com/2016/05/19/kddi-liquid/)。この実験は、訪日外国人が一度指紋とクレジットカード情報などを登録すれば、ホテルのチェックインや買い物の決済などが、池袋周辺の提携店舗で可能になるというものだ。つまり、一度登録してしまえば自らの指紋のみでサービスが受けられることになる。スマホも個別IDすらも不必要であるばかりか、こうしたサービスはいずれ金融機関や病院のカルテ作成など、あらゆる面でカードや現金の代替物になる可能性もある。

 また、東日本大震災によってID情報などを失ってしまった被災者の方々など、災害によって個人を特定するものがなくなっても、生体認証であれば心配もない。自分こそが究極のパスワードだからだ。あるいは、緊急の手術などを要する際も、個人のアレルギー情報などを電子カルテとして登録しておけば、万が一の時も生体認証だけで情報を入手することができるというわけだ。


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