2024年11月22日(金)

サイバー空間の権力論

2016年6月6日

生体情報そのものが盗まれたら?

 とはいえ、だ。パスワードより安全といっても、生体情報そのものが盗まれてしまったらどうすればいいのだろう。指紋であれば犯罪捜査同様に指紋を拭きとって利用されるかもしれない。すでに数年前に他人の指紋を採取して偽造を可能にした例もある(http://jp.techcrunch.com/2013/09/23/20130922hackers-bypass-apples-touch-id-with-lifted-fingerprint/)。究極のパスワードである生体認証であるからこそ、一度偽造されると打つ手がない。そのように思う読者も多いだろうし、それ故に決済や病院などの個人情報をすべて紐付けることには不安も残る。

 おそらく、こうした問題は生体認証が進めば進むほど重要な論点になる。自分の生体情報が盗まれないように注意深く指紋を拭きとって飲食店を後にする未来は、現在のパスワード管理以上の煩雑さを我々に思い起こさせる。そうした懸念への対策として、拭きとった指紋のような表面的な情報だけでは認識できないようにする高度なセンサー技術も開発されている。それは、指紋の画像だけでなく指から発せられる微量の電気を感知することで、指紋が生きているものか偽造されたものであるかを判定するものであり、こうした分野はますます発展するだろう(それには技術と同時に情報を読み取るセンサーの導入コスト削減も必要だ)。

 また生体認証は今後いくつかの生体認証を複合的に用いることでセキュリティを向上させていくことも予想される。指紋と静脈のコンビでログインすることもあれば、声紋と顔データを利用する、といった生体情報の組み合わせも必要になるだろう。加えて冒頭のグーグルが研究しているような、日常的な行動パターンやその他の行動ログから認証するといった技術も現れるかもしれない。様々な認証方法が逆にパスワード以上の管理コストを増やしてはならないが、このあたりは現在の生体認証技術の発展に期待したい。

 パスワードは確かにリスクも高く使い勝手が悪い。その代替案として登場しつつある生体認証だが、みてきたように明るい展望もあれば不安の残る側面も確認された。とはいえ、世界中に蔓延する情報流出を抑え、同時に多くの領域に利便性をもたらすものとなるかどうか、今後に注目したい技術である。そしてまた、こうした技術が我々の生活をどのように変化させるかについては、稿を改めて検討したい。

  
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