愛知県がんセンター研究所疫学・予防部の田中英夫部長は
「名古屋市が発表したHPVワクチンと自覚的な諸症状との関連を調べた調査は、非接種群を比較対照に置いた良くデザインされた大規模な疫学調査で、結果の信頼性は高いと考えます」
「一部の団体からは、年齢を補正してオッズ比を算出したことが不適切であるとの意見があるようですが、この調査のように、2つの集団間で有病率を比較する場合、年齢の影響を補正して因果関係の有無を推定する値を算出することは、疫学の基本中の基本です」
「この調査にも、いくつかのバイアスが入り込んでいる可能性はありますが、接種群の方がワクチンと有症状を関連付けて回答しやすくなると考えるのが自然で、このためこの調査方法は、因果関係を過大評価する方向に働いていると思われます。にもかかわらず、症状との関連性が認められなかったのですから、その結果は、ゆるぎないものと考えるのが妥当です」
と語った。
遅れに遅れた最終報告
最終報告の発表時期も不自然だった。
12月14日に速報を発表した際、「1月中目途」としていた最終報告は、遅れに遅れた。問い合わせる報道各社に、市の担当者は「3月までには……」と答え、最終報告に市長は同席しないという話にもなっていた。
しかし、最終報告は、年度末を過ぎても一向に発表されない。しびれを切らして6月2日、名古屋市役所を訪問したWedge編集部に対し、4月の人事異動で一新されていた担当者たちは、「まだ出せない。時期は言えないが、そんなにかからないと思っている。調査時期(15年9月)から1年かかってしまうようなことはさすがに避けたい」と答えた。
なぜ出せないのか。市の回答は要領を得ないばかりか、変化もした。5月23日の電話取材では「関係する様々な団体と調整中」だったが、6月2日の対面取材では「自由記述欄のタイピング(入力作業)に時間がかかっているから」という理由が追加された。3月末のリミットを超えた理由は「数字を精査しているとときどき間違いが見つかったためそのつど潰していたから。報告書として出すために体裁的なことなど文面の細かい調整も行い、それらをそのつど市大や上層部に回して確認を取っていると時間がかかった」というもの。
年度単位にこだわる役人が、その程度の事務処理の遅れを理由に、最終報告の発表を年度越えさせるのも不可解だ。
調整している「様々な団体」とは誰なのか。具体的には、いくら聞いても、被害者団体からの抗議の話しか出てこない。
「一つ一つ丁寧な対応が必要ですから。それも『調整』です」と答える。
6月2日、Wedge編集部は河村市長を直撃し、なぜ最終報告が遅れているのか尋ねた。