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2016年6月27日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

河村市長「あれは出しとるじゃろ」
編「いや、出たのは速報だけです」
市長「そうじゃったか?出しとるじゃろ」

 河村市長は、何かを隠しているという風ではなく、関心を失っているようだった。

河村市長の"関心"

 河村市長は、調査実施発表の昨年8月24日と、速報発表段階の12月14日に記者会見を行っている。

 8月24日の発言はこうだ。

「こういういろんな皆さんからの声が届いたときですね。予防接種の副反応に。届いたときに、やっぱり責任を持って。今までだと、何かこういうことになると、すぐ逃げ腰になるんですけれど、そうじゃなくて、全件調査をするということにきちっと踏み出しまして、日本一のワクチン予防接種先進都市にふさわしいことをやっていきますので」

「これもね、この間お見えになって。色んな症状を訴えられておる方がね。そういう皆さんの声に応えるということですから、なかなかええんじゃないですかね。いつも全然褒めてもらえんけれど、たまには、名古屋もええことをやるわなと言ってもらいたいわな」

 市長の発言にあるように、この調査は、もともと被害者らの訴えを受けて始めることにしたものだった。中日新聞の報道によれば、2015年1月9日、被害者連絡会愛知支部の会のメンバー10人が河村市長のもとを訪れ、市内のワクチン接種者全員を対象とした健康調査を実施することなどを要望している。市長の発言にも見え隠れするが、関係者からは、市長自身が薬害の可能性を心配して始めた調査だと聞く。そして市の担当者によれば、調査票にも被害者の会の意見を反映したという。

 「有意差がない」という速報を見た河村市長は、「驚いた」と語っている。以下が、12月14日の会見での発言だ。

「私も国会におりまして、薬害の問題というのは、本当に日本の歴史上、大変な課題を抱えておりまして。私の認識では、一番最初はサリドマイドでしたかね。それから、僕らが国会におったころは、何といってもエイズの非加熱製剤の問題があって、ああいうのもみんな対応が遅れていって、それをどこかの自治体がこれだけの大量に調査をして、そこから一定の結論というか、因果関係の大きな重要な要素を引き出していくというのは、初めてではないですか。初めてだと思いますよ」

「私の素直な感覚を言いますと、役人が言ったやつじゃないですよ。びっくりしましたよ。本当に。まず驚きましたね。この結果はね。こういう格好で、いわゆる子宮頸がんワクチンを打ったか打たないかで、今の数字で言うと、影響が無いという風に見られる数字が出たというのは。何でかというと、エイズやサリドマイドで、そちら側の話を今までずっと国会の中でやってきましたので。薬害という方でね。だから、非常に驚きました」

 この調査は、国会議員時代に薬害問題で「そちら側の話」をやってきたという河村市長が、被害者団体の要望を受けて開始したものなのだ。結果に驚いたのも無理はない。

 市長も例に挙げているサリドマイド問題では、ドイツのレンツ博士が活躍し、薬害疫学発展の礎となったが、レンツ博士が最終的にまとめたケース・コントロール・スタディーにおけるオッズ比は380である。

「典型的な薬害のサリドマイドでは、こういう大きさのオッズ比が出ている。今回、名古屋市で調査した症状を、子宮頸がんワクチンの薬害によるとするのは無理がある」(前出の田中英夫氏)

 薬害オンブズパーソン会議の事務局長を務める水口真寿美弁護士は、12月14日の会見で、「副反応の症状は複合的で一人が複数の症状を持っている。個々の症状ごとに接種者と非接種者との有意差を比べても意味がない」(朝日新聞の記述)と述べている。

 この「重なり」理論はかねてから同会議が主張しているが、これも「本当に薬害なら、重なりがなくてもそれぞれ単独の症状でも有意差が出ると考えるのが一般的」(田中氏)だ。

詳細解析しても変わらなかった結論

 それでは、薬害オンブズパーソン会議が求めた「さらなる分析」「徹底した分析」で結果は変わったのか。

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