エンヒッキと過ごし気付いた自らの役割
これもエンヒッキとのエピソードだが、ゲーム中に「一対一」の奪い合いをしたときのこと。野口が激しく体を寄せていってボールに絡もうとしても、エンヒッキのボールを取ることが出来ない。両手でクラッチを着いているはずなのに、野口がどう絡んでも体を押されて寄せ切れなかった。
当日はお互いに夢中で、それがどうしてなのかわからなかったが、ボールを取りに行った野口も、キープし続けたエンヒッキも、そのシーンが頭の片隅に残った。そして後日……。
「僕が『あのシーンでさぁ』と言っただけで、エンヒッキも気になっていたらしく、すぐにそのプレーを見せてくれたのですが、彼は感覚派なので言葉で表現することがあまり得意ではありません。僕はその逆でプレーを客観視して、言語化するのが得意ですから、二人でそれを分析しました」
要約するとエンヒッキのディフェンスは、両手でクラッチを使いながらも、肘を外側に張ることによって自分のプレーエリアを大きくして、相手の侵入を防いでいたということだ。それを感覚的に掴んで無意識に実戦で使っていたのだが、他の選手が同じことをやろうとしても、強い腕や体幹を必要とするため、その姿勢をキープし続けることが難しい。
「でも、チームのレベルアップには絶対にそれが必要だと思って、チーム全体の練習に取り入れていこうと二人で相談しました。僕の役割は上手い選手の感覚的なプレーを言語化して、チームのみんなに伝えることなんだと改めて感じました。それがこの競技全体の発展にもつながっていくはずなんです。まだまだ発展途上の段階にあるアンプティサッカーですから、工夫の余地が大きいと思っています」
それまで感覚的に行われていたプレーが、野口の気づきによって言語化され、チームの知識やスキルとして浸透したものは多い。
たとえば試合終盤に転倒する選手の特徴をつかんで、「なぜ?」を分析し、練習に取り入れてみたり、選手の利き手、利き足と欠損部位の関係から、いかに強化を図るか、その方法なども考えている。