2024年5月1日(水)

ひととき特集

2010年1月22日

野原として残る1300年前の宮跡は、さまざまな人々の努力の結晶である photo:打田浩一

里中 多くを追いかけないから千年も保ったのか、追いかけられなかったのか……。

千田 いずれにせよ、飛鳥、白鳳から天平文化、平城京の前半頃までにあった荒々しいほどのパワーは、その後の日本では二度と見られない。唐の力も衰えて遣唐使も廃止されると、さらに内へ内へと籠る指向となってね。平安文化って携帯電話に似ていると思いませんか? さほど必要でない機能が山盛り付いている感じで。

里中 実質的に何があるということより「京」としてどう見せかけるか、がテーマとなっていったのかもしれませんね。気づいたら「武士」という人たちが政治を動かしていて、天皇はじめ公家方は、「それらしい顔でそこにいる」ことが大事な役目になっていた。そういう役割分担を、近代化とも言うのでしょうが。

今年は平城遷都1300年を記念し、奈良でたくさんの記念イベントが行われる。
illustration by Yasuko Sudaka
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千田 実質の無さという点では、現在の東京も同様かもしれません。一見先進的で国際色があるように見えても、どこもかしこもパビリオンのようで「日本の首都」という自覚は、ほとんど無い。東京という街が、世界に向けてエネルギーを発信する力を無くしてしまっている……そんな気がします。

里中 1300年前には、大陸を視野に入れて、これほど躍動的に生きた人たちが居た国なのに。でも、考えてみると奈良って、そういう、この国でもっともエネルギッシュだった人たちが、歩いたであろう道、眺めたであろう風景、感じたかもしれない風……が、今もあるところなんですね。

千田 それは遷都以降、草っ原になったからこその恩寵、とも言えるんです。手付かずであったからこそ、1300年の時を越えて古代の面影を間近に偲ぶことができる。そういう場所は世界的にも珍しいと思いますよ。

千田 稔(せんだ・みのる)
1942年、奈良県生まれ。奈良女子大学教授、国際日本文化研究センター教授を経て、現在、同名誉教授、奈良県立図書情報館館長。専門は歴史地理学、日本文化論。『平城京遷都』(中公新書)、『アジアの時代の地理学―伝統と変革』(古今書院)ほか著書多数。

里中満智子(さとなか・まちこ)
1948年、大阪府生まれ。高校生のとき講談社新人漫画賞を受賞しプロの漫画家に。『アリエスの乙女たち』(講談社)をはじめ数々のヒット作を生み出す。マンガジャパン事務局長、大阪芸術大学キャラクター造形学科教授ほか公職多数。新刊に古代史を扱った『天上の虹』(21巻、講談社)がある。
里中満智子オフィシャルサイト:http://www.satonaka-machiko.com/
 

 ◆「ひととき」2009年12月号より


 

 

 

 

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