2024年11月22日(金)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年7月19日

好感度

 第2の課題は、どのようにして好感度を高めるかです。2016年米大統領選挙は、好感度が低い二人の候補の戦いになりました。相手候補も好感度が高くないので気にかけないかもしれませんが、好感度向上の戦略に関して前回の米大統領選挙の例を挙げてみましょう。

民主党のシンボル「ロバ」。クリントン候補は全国党大会で好感度を高めることができるのか

 2012年米大統領選挙において共和党候補であったロムニー候補は好感度を高めるために、大統領候補受諾演説でコミュニケーションのある手法をとりました。それがストーリーテリング(物語りを語る)です。同候補は、両親のストーリー(物語り)を語ったのです。同候補によれば、父親は母親のベッドの脇にあるテーブルに64年間バラを置いていたと言うのです。ところがある日の朝、母親はバラが置いてないのに気づくと、父親が亡くなっていたのです。ロムニー候補は、両親が与えてくれた無条件の愛を妻のアンと共に、5人の息子に捧げていると語ったのです。

共和党のシンボル「象」。トランプ候補は全国党大会で党内の統一を図ることができるのか

 同様に、クリントン候補も好感度アップを狙いストーリーテリングを使うでしょう。同候補の母親は、両親が離婚したため当時3歳だった妹の手を引いてシカゴから汽車に乗ってカリフォルニア州に移り、父方の祖父母の家に引き取られたのです。その後、14歳で祖父母の家から逃げだし住み込みの生活をして、幸せな家庭を作ることに夢を抱いた母親のストーリーです。

 ただ、民主党候補指名争いにおけるテレビ広告でクリントン候補は、母親のストーリーを全面に出しましたが、それほど効果がありませんでした。そこで、クリントン候補は富裕層で大企業志向のトランプ候補との比較を明確にする目的で、中間所得層で小企業志向の父親のストーリーを語る可能性もあります。クリントン候補の父親は、自営業者でカーテンの生地を扱っていました。

 トランプ候補との対比を鮮明にする狙いに加えて、父親のストーリーを紹介することにより、ウォール街の大企業と密着しているというイメージを弱める意図もあるのです。さらに、カーテンの生地を販売していた自営業者の娘が、大統領の座を目指しているというメッセージは、「アメリカンドリームは死んだ」と主張したトランプ候補に対する挑戦でもあります。従って、父親のストーリーは3重の意味が込められています。

 一方、トランプ候補ですが、大統領候補受諾演説では「強いリーダー」、ことに、経済とテロに強い「頼りになる人(英語のトランプの意味)」というメッセージの発信に時間とエネルギーを費やすでしょう。というのは、好感度の向上をそれほど期待できない同候補は、上の2つの争点ではクリントン候補に対してリードしており、有利な立場にあるからです。


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