周到な布石
今回のシリア越境作戦の開始に当たってはエルドアン氏が周到な布石を打っていたことも浮き彫りになっている。それはロシアとの和解だ。ロシアとは昨年11月のロシア軍機撃墜事件で断交手前までに悪化したが、同氏がプーチン大統領に謝罪して8月9日に首脳会談を行い、関係を修復した。
「あの誇り高い独裁者がよくプーチンに頭を下げたと不思議に思っていたが、今回の越境作戦の布石を打っていたと考えれば納得がいく」(ベイルート筋)ということだったようだ。シリアの国境地帯でクルド人勢力が従来の3倍近くまで支配地を拡大していくことに焦燥感を深めていたエルドアン氏にとって障害の1つはロシアとの対立だった。
ロシアと対立したままで、軍をシリアに越境させれば、ロシアからの報復爆撃を受けかねなかった。このため同氏は「屈辱をのみ込んでプーチン大統領に頭を下げた」(同筋)。同時に「トルコの進撃を支持する」(バイデン米副大統領)という発言からも分かるように、水面下でオバマ政権からも了承を得ていた可能性が強い。
そしてクーデター未遂もエルドアン氏に味方した。現地からの情報によると、エルドアン氏はこれまでに再三に渡ってシリア越境作戦の立案を軍に指示したが、ことごとく拒まれてきたという。反対していたのは、特殊部隊司令官のセミヘ・テルジ准将らクーデター派の軍幹部が中心で、これら反乱派が粛清されたことにより、進撃作戦が容易になった。
北大西洋条約機構(NATO)で第2の規模を誇るトルコ軍の進撃作戦で、エルドアン氏は軍部を完全掌握したことを誇示、政敵のギュレン派一掃を目指す“エルドアン革命”の推進を内外にアピールした。しかしトルコ軍の長期駐留は必至で、硝煙と流血にまみれたシリアに新たな紛争のタネが撒かれた意味は計り知れないほど重い。
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