2024年12月19日(木)

前向きに読み解く経済の裏側

2016年10月24日

回収見込み額以外にも考慮する事が多数

 借り手が立ち直る可能性が小さいと判断された場合、回収見込み額の多寡を比較して、多い方を選ぶことが原則なのですが、実際にはそうとも限りません。債務超過の借り手を生かしておくと、手間とコストがかかりますので、借入額が小さい中小企業であれば、多少の回収額は犠牲にしても、清算してしまう場合も多いでしょう。

 一方で、巨額の貸出金がある場合には、手間とコストをかけても回収額の多い方を選択するでしょう。中小企業からすると、「大企業だけ返済猶予するのはズルい」と感じるかもしれませんが、銀行側にも事情があるのです。

 銀行としては、「あの銀行に潰された。あの銀行は冷たい」という悪評が立つことを避けたい、とも考えます。そんな噂が広まったら、金を借りてくれる会社がいなくなってしまうからです。その意味でも、倒産するとマスコミに登場するような大企業は潰したくないと考えるわけです。

 銀行決算の観点からも、決算が赤字になると格好悪いですし、自己資本が減ると自己資本比率規制(BIS規制)に抵触する場合もあります。したがって、粉飾決算と言われないギリギリまで「回収可能債権」として扱おう、という力が働く場合も少なくないと思われます。

銀行員の保身から回収を待つケースは稀と思われる

 余談ですが、バブル崩壊後に銀行が借り手の返済可能性を甘く査定したことについて、「経営者が己の保身のために部下に甘い査定を命じた」としている論者が大勢いました。理屈上はあり得る話ですが、当時銀行の一兵卒であった筆者から見て、経営者が保身のために査定を甘くしたことは無かったと思います。

 仮にそうしたことがあったとすれば、頭取が辞任した直後に後任者がすべての査定をやりなおして、膿をすべて出し切る筈です。そうでないと、引き継ぎ後に発生した倒産は、前任者ではなく自分の責任になってしまうからです。しかし、頭取が交代した直後に大胆な査定の見直しにより貸出金の回収が一斉に行われた、という話は聞きません。

 個々の銀行員についても同様です。人事評価の減点を恐れて「この借り手は必ず立ち直ります」と上司に説明して回収を待つとします。その場合でも担当者が交代した直後に膿を出し切るでしょうから、その時点で前任者の人事評価が減点されるため、前任者にとっては回収を待つインセンティブが無いのです。(銀行によっては、人事評価システムが不合理で、担当者が回収を待つインセンティブを持つ場合があるかも知れませんが、多くは無いでしょう)。

複数の銀行が貸していると銀行間の駆け引きが生じる

 銀行融資が自行だけなのか、他行も融資しているのか、という点も重要です。自行が返済を待っている間に、他行が回収を進めてしまうと大変だからです。メインバンクが各融資行に「各行が協力して借り手を支えましょう。抜け駆けの回収はしないで下さい」という依頼をする場合もありますし、様々です。

 メイン以外の銀行にとっては、「メイン寄せ」といった裏技もあります。メイン以外の銀行であっても、多額の回収を行って借り手が倒産すると、「あの銀行に潰された」という悪評が立ちます。そこで、これを避けるために少額の回収を行うわけです。それによって資金が少しだけショートする場合、借り手はメインバンクに少額の追加融資を要請します。

 メインバンクとしては、借り手が倒産するよりは少額の追加融資に応じた方が得だと考えるかもしれません。そうなれば、少額の回収をした非メイン銀行は「上手くやった」ことになります。このあたりの銀行間の駆け引きは非常に複雑で、神経戦のような所もあり、小説の題材には面白いのかも知れませんが、本稿では深入りしないことにします。


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