電通女性社員過労自殺事件の裁判を担当し、遺族側代理人を務める川人(かわひと)博弁護士が日本記者クラブで「過労死をなくし、健康的な職場を」と題して講演、電通で入社1年目の女性社員が死亡したケースについて「電通の上司側に人格を否定するハラスメントをするなど労務管理に大きな問題があった」と指摘し、電通側の管理体制を重大視した。長時間労働がなくならない日本企業の実態について「第3次産業で消費者、クライアントの言い分を重視して、『お客様は神様だ』『クライアント・ファースト』というのはあまりにも行き過ぎている。そこで働いている労働者の労働条件の悪化に対する配慮がなさすぎる。戦後の復興期に長時間労働は意味があったかもしれないが、21世紀では有害そのものだ」と強調、社会全体で長時間労働をなくす努力をしなければならないと述べた。
1日6人が勤務が原因で自殺
川人弁護士は「長時間労働は戦後の日本的経営システムの中に組み込まれ、サービス残業(無給残業)という非合法的な長時間労働と、労使協定(36協定)で長時間労働を合法化する方法が確立してきた」と述べた。1980年代後半から働く人の突然死が頻発するようになった。2004年から15年度の最近の12年間でみると、年間700~800件の労災認定がされ、このうち約200件が死亡しているという。脳、心臓、精神疾患は高い水準でとどまっており、警察庁の統計によれば、1日に約6人が勤務問題が原因・動機で自殺しており、「これは大変な数字で、何とかこれを変えなければならないというのが我々の活動の元になっている」と述べた。
こうした事態を受けて、14年に過労死等防止対策推進法が成立、過労死を防止することが「国の責務」と明示された。15年には過労死防止大綱が閣議決定され、16年10月には「過労死等防止対策白書」が発表された。
生かされなかった最高裁判決
電通では1991年にも入社2年目の社員が自殺に追い込まれた。これについて最高裁判所は2000年3月に「疲労や心理的負担が過度に蓄積して、労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」という判決文を出し、最高裁として電通の責任を認めた。この判決後には電通は反省し、社内改革を行うと表明したが、判決が出てから15年を経て、この教訓が生かされず、再び電通の社員が過労で犠牲者が出た。
亡くなった女性社員は15年4月に入社、10月に本採用になった。保険会社のデジタル広告についてデータの集計、分析などを担当、クライアントへの提案を一週間単位で繰り返していた。10月からは証券会社のデジタル広告も担当、深夜勤務、休日勤務が常態化し、睡眠時間が非常に少ない状態が続いた。「深夜、休日勤務が続いたことに加えて、本来業務ではない社内の懇親会などへに出席を求められ、席順、食事内容などについて懇親会後の反省会で、やり方について上司から叱責されることが続いたことなどが大きな負担になった。女性社員を自殺に追い込んだ原因は、長時間労働と極度の過労と睡眠障害、人格を否定するような上司によるハラスメント、これを助長する労務管理があると考えられる」と総括した。