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2016年12月6日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

目的達成には手段を選ばず

 「死に至った原因を分析すると、電通固有の問題と、第3次産業に共通する問題があることが分かってきた。固有の問題は、電通の4代目、吉田秀雄社長が1951年に作成した電通マンの行動規範を定めた『鬼十則』に端的に示されている。『鬼十則』は社員手帳の中に印刷され労務管理に活用されてきたが、一番問題だと思うのは『鬼十則』5項目にある『取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは』というもので、業務達成が働くものの健康より優先する思想、職場風土がある。目的達成のためには手段を選ばない、その中には不正行為も含まれる。電通はこの9月インターネット広告でクライアントに対して不正請求をしていたことが明らかになった。担当役員は『インターネット広告の職場は恒常的な人出不足に陥っていた』と話しているが、インターネット広告の職場は、一方で過労死が起き、一方で不正行為が行われていた。実は多くの職場では、過労死と業務不正が同時に発生している」と指摘した。

 電通の改革が可能かどうかについては「社長が社内改革を発表して一部は実施されているが、究極的には経営者が今回のケースを含めて25年前のケースまで遡って真摯にこの事実を受け止め、さまざまな批判を謙虚に受け止めることができるかどうかだ。小手先で改革を装うようなことは決してあってはならない」と経営陣に厳しい反省を求めた。

 同時に「改革について監視体制を継続しなければならない」と強調、電通に関する報道が1、2カ月で終わって風化しないよう、メディアに対しても継続して報道するよう強く要請した。「鬼十則」の取り扱いについては、「電通は社員手帳からの削除を検討しているという報道があったが、直ちに削除を決めるべきだ。これが電通再生にとっての不可欠の条件だ」と厳しく指摘した。

 「今回の事件の背景には第3次産業に共通の問題がある。それは過剰サービスによる業務量の増大だ。『お客様は神様だ』といった掛け声のもとで、どれだけ多くの労働者が健康を損ない、命を失ったことか。日本の社会は消費者の利益が尊重され、クライアントの意見があまりにも前面に出ですぎているために、休日出勤、徹夜など無理をしてでも納期を守ろうとする。これは電通の問題というより、広告業界全体の問題なので、広告会社に依頼者のクライアントを入れた業界団体に過重労働が発生しないようどのような努力をするのかを業界に考えてもらうよう申し入れる」と述べ、広告業界全体として考えるべき問題だとみている。

勤務時間インターバル規制を

 海外勤務者にも過労死が増えている。特に中国などアジアに駐在している大企業、中小企業の駐在員は、グローバル化に伴い、本社からいろいろな指令が届くなどして多忙を極めることになる。上海では08年から13年までの6年間に日本人247人(男性202人、女性45人)が死亡している。川人弁護士は「この中に相当数、過労死の疑いが強い死亡がある」とみている。

 警備員という職種は20年の東京オリンピックを控えて警備の業務量が増えている。このため残業時間が増えて過労死が起きる危険性を指摘している。また、「建設現場などで働く建設作業員のいる建設業界と運輸業界は時間外労働について例外になっており、法令の規制が一切ないのは問題だ。これは改革しなければならない」と述べた。

 長時間労働による社員の健康が損なわれることが増加していることから、「健康経営」という言葉が企業の労務管理で使われるようになり、健康経営により企業の健全な発展を目指そうという会社が増えている。労働組合の役割も重要で、36協定の内容改善など職場での労働時間の規制などで労働組合の果たすべき役割は大きい。

 長時間労働による過労死を予防するための手段として「EUの『労働時間編成指令』にある一定時間働くと一定期間休む『勤務時間インターバル規制』を導入すべきだ。例えば、24時間につき最低連続11時間の休息時間を義務化するなど、休息と睡眠時間を確保して労働者の健康を守る必要がある。私の経験からすると、これが実行されれば過労死の多くは予防できると思えるので、政府には是非とも方針化してもらいたい」と緊急提案している。

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