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2017年1月12日

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真田康弘 (さなだ・やすひろ)

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員/客員准教授

早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授。神戸大学国際協力研究科博士課程前期課程修了(修士・政治学)。同研究科博士課程後期課程修了(博士・政治学)。大阪大学大学教育実践センター非常勤講師、東京工業大学社会理工学研究科産学官連携研究員、法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチ・アドミニストレータを経て、2014年より現職。専門は政治学、国際政治史、国際関係論、環境政策論。地球環境政策や漁業資源管理など幅広く研究を行っている。著書に『A Repeated Story of the Tragedy of the Commons: A Short Survey on the Pacific Bluefin Tuna Fisheries and Farming in Japan』(早稲田大学、2015年)、その他論文を多数発表。
 

 日本がここ数年WCPFCで資源保護を訴えているのが、カツオである。近年、日本近海でのカツオの不漁が相次いでいる。例えば、生鮮カツオ水揚げ量日本一を誇る気仙沼漁港の10月末時点での水揚げ量は約19,000トンと昨年より約15%減り、過去20年間では下から4番目になる見込みだ。震災前年の5割に満たない(読売新聞2016年11月16日付)。カツオの不漁は全国でも相次いでおり、関係者は危機感を募らせている。

 不漁の原因ではないかと疑われているのが、低緯度海域での大量漁獲だ。熱帯地域で操業する日本の巻き網漁船の操業は横ばいだが、パプアニューギニアなど島国や米国などが漁獲を増やし、2014年の中西部太平洋の漁獲量は過去最高を更新している。2016年1月に日本カツオ学会が開催した「カツオフォーラムin気仙沼」は赤道域での大量漁獲が北方への回遊を減少させていること、WCPFCで外国の大型巻網漁業に対する管理強化を訴える宣言文を採択した(みなと新聞2016年2月2日)。

 カツオは太平洋海域を回遊するため、資源を保護するためには日本だけでなく太平洋の沿岸国・漁業国の協力が欠かせない。そこで日本は近年WCPFCの場でカツオの資源保護を各国に強く訴えている。ところがWCPFCの下に設けられている科学委員会では、カツオは乱獲されていないとの資源評価がなされてきた。本年夏に開催されたWCPFC科学委員会でも、その生息数は初期資源量比で58%とする推定が提示された。WCPFCではカツオは初期資源量比で50%の水準に保つことを目標とすることが既に合意されており、この評価に基づくならば、資源は極めて良好な水準に保たれていることになる。

 このままでは日本がいくら資源保護を理由として低緯度地域での先取り規制を訴えても各国にはその主張が説得力あるものとして響かない。当初日本はWCPFC本委員会の場で「資源回復目標は初期資源量比で60%とすべきだ」と主張したが、そこまで目標を高くしなくても良いとの意見が多数を占め、結局50%とされることが合意されたため、「これまでの資源評価は楽観的だ。実はカツオは減っている」との科学的知見を提供し、各国を説得する手段を採用することになった。WCPFC科学委員会で日本は中国及び台湾とともに独自の資源評価を提示、親魚資源量は初期資源量比で43 – 71%の水準にあり、目標とされる50%を切っている可能性がある、と主張したのである。対案を出した日本などは科学委での多数意見に合意せず、科学委員会報告書には双方の評価が併記されることとなった。

 日本近海でのカツオの漁獲は減っているとの声は現場の漁師の方々やカツオに携わる関係者から広く聞かれる。統計にも表れている。これまでの資源評価は過度に楽観的ではなかったろうか。とするならば日本がWCPFC科学委で提示した資源評価は大多数の支持とまではいかなくとも、ある程度の理解が得られるのではないか。筆者が会議に参加したのも、各国やその他参加者からこうした理解が得られていることを確かめたいというのが一つの理由だった。しかしこうした期待は裏切られた。

「科学を操作するな」

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 カツオの資源評価が議題として取り上げられたのは会議が始まって二日目の火曜日。午前のセッションだった。各国代表を前に科学委員会代表からメバチマグロやキハダマグロなどと並んでカツオの資源評価がパワーポイントを用いて発表が行われ、先述のように「乱獲は起こっておらず、資源的に問題がない」との見解が提示された。そこで日本代表は発言を求め、「カツオについては日本等がこれとは異なる資源評価を提示している。その意見には合意できない。より多くのデータを用いて検討を行う必要がある」とコメントした。

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