年末この時期、カレンダーにまつわる経験を人それぞれあるのではないかと思います。私自身も、電機メーカーの営業マン時代、工場の壁にあるカレンダーに目をやるお客さん、『この納期だったら年内もう間に合わないよぉ!どうしてくれるんだぁ!』その声に平謝りの自分。翌年の日程を見ながら、苦しい答弁をしたことも。
また金融機関での営業マン時代、場所は某銀行の支店長応接室で、『大安がこの日だから、決済はこの日でやりましょう! 事前に書類関係準備よろしくね』と、年内の大きな成績が決まった際もそこにはカレンダーが壁にありました。
サラリーマン時代終盤、毎年会社から支給される自社の名前が入ったカレンダー、コストが見えやすいことで、年々本数が減り、得意先、関係先に配ることもできなくなっていきました。私にとっては、この時期、お客さんとのその年の「振り返り」、「共感の共有」、「コミュニケーションツール」としてのカレンダーは大事なものと今も思っています。
独立後、私の一番欲しいと思うカレンダーを購入し、配布している次第です。私がカレンダーを持参すると、経営者の皆さんから「最近、貰えなくなったね~」の言葉が結構な頻度で帰ってきます。実際、カレンダーマーケットはシュリンクしている模様です。
その中で、このカレンダー業界に社会的意義を感じ、大きなマーケットと捉えて起業した、名入れ製作所(大阪市西区)の大脇晋さん(36)にお話を伺いました。
Q 斜陽業界という旧態依然の業界に殴り込みをかけられた訳ですが、どこに勝算ありと思われましたか?
ITとは遠い世界であることを認識し、テクノロジーという武器を駆使すれば、必ず業界に打って出れると考えました。優秀な人材は斜陽産業に来ない。そこに参入障壁があると思いました。販売チャンネルを変更することで、斜陽産業ほどパラダイムシフトが起こりやすいと感じていました。
現在は、業界トップクラスの利益率を叩き出している模様です。
Q 名入れのカレンダー市場の規模感は?
『おおよそ、850億円の市場と言われています、これは前職のリクルートで取り組んでいた新卒採用市場850億円と同等、年率3%程度でシュリンクしていますが立派な市場と思っています。そんな中、カレンダーも卓上型はIT企業・新興企業等の事務所関連の会社が牽引し年率11%で成長をしています、お一人様ビジネスが花盛りを反映しています。 また我々の様なネット販売チャネルでは125%で拡大をしています』
Q 強みは?
いくつかポイントがあります。この業界には、100年以上変わらない商流と言われています。「メーカー」 → 「問屋(卸し)」 → 「販売店・町の印刷会社・販促会社」 → 「顧客(カレンダーを配布する会社)」 と、それぞれの立場に、「営業マン」が存在します。こうした販促コストの高い体質がカレンダー業界にはあります。
私の場合、商品によって複数の仕入れ先と直接行い、お互い営業コストを最小化しています。値段を安くしながらも、仕入先の皆さんに利益をもたらすことができています。また、超短納期も実現しています。
既存の商流が複雑化している関係で、12月に入ると、「もう社名入りの名入れ印刷はできません」と、断ってしまうことが業界の常識でした。ここにもビジネスチャンスを感じ、仕入れ業者さんの協力で、注文から5日で発送出来る体制にしています。
私自身、リクルートで顧客対応力を鍛えてもらいましたが、社員の多くがリクルートで活躍した人材です。その対応力、営業ノウハウ、スピード感、コールセンターに、ネット経由の問い合せに活かせていると思っています。それも我々の顧客のほとんどが法人であり、通常のBtoCのコールセンターとは勝手が違うことを十分に理解して運営しています。
大脇さんはリクルート社に在籍時、社内の人が羨む「殿堂入り」を経験し、目標数字を外さなかったが、日々多数の経営者と会う中で、「いつか自分も経営者に」と思うようになったそうです。そこで起こったのがリーマンショックでした。
仕事が激減するなか、会社にしがみつかずに起業を選択しました。営業マンから脱却のために、「誰でも出来る(再現性の高い)ビジネスを志す」ことにしました。偶然の出会いで、カレンダーの仕入れ業者社長とECをはじめてみました。ITとは遠い世界から、独力で学び、販売体制を構築したといいます。
創業から5年の今年で、おおよそ5000社との取引量へ。ここから2020年には5万社に取引先を増やしたいと言います。